健康的な目覚め
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「あ、あれ、わたくし……?」
そんなドタバタが過ぎ去った翌朝、ラトゥーリアは健康的に目を覚ました。
最初こそ状況が呑み込めず呆然としたが、昨晩の記憶はしっかりと残っていて、思い出せる。
鮮明に思い出していく程に、ふわふわと浮ついた気持ちが増していく。
(はぁぁ……あんなに幸せなやり取りは初めてでした……)
第一王子フリードリヒと多少恋人らしいやり取りをする事はあったが、実に淡泊なものだった。
相手から一方的に、相手がやりたいようにハグやキスを受けるだけ。
ラトゥーリアの気持ちなどは全く汲まれなかったので、感情を無にして対応するしかなかったのだ。
そういう自分勝手で独りよがりなところが全く好きではなかったなと、今更ながら思い至る。
嫌な記憶を上書きするように、昨日の口づけを思い浮かべて、また少し顔を赤くした。
「まだ熱がありそうですね……」
ルフトが傍らで神妙な顔をして、ラトゥーリアを観察していた。
顔が真っ赤なのは思い出し照れなだけなので、気にしないで欲しいと、ラトゥーリアは慌てて否定する。
「すっかり元気です。お騒がせしました……!」
あまりに沢山の幸福を受け取りすぎて、心が限界を迎えてしまった。なるべく真面目に惚気に聞こえないように伝えたが、ルフトの神妙な顔は直らなかった。
「惚気ですか」
「いえ……あの、どうしても惚気に……」
「嬉しいのもわかりますし、浮かれるのはわかりますので、お気になさらず」
(その割に、顔に生気がないですね……)
仕事が増えてしまったのもあるが、ヴァローナとラトゥーリアの話を聞いて胸やけを起こしてしまっているようでもあった。
「ところで、復讐計画のお話がどこまで進んだか、お伺いしてもよろしいですか?」
「……えぇっと、多分全く。
復讐計画を了承したという段階かなと思います」
「致し方なかったんだ」
何故かヴァローナの弁解が医務室の入口の方から聞こえて来た。
視線を向けてみれば、扉の影に黒髪赤目の美青年が、拗ねた子供の用に体半分を隠しつつこちらをじっと見つめている。
「えぇ……ヴァローナ?」
「出禁と言ったのですが聞かなくてですね……不本意ながら扉の辺りまでは侵入を許可しています」
「わ、わたくしも悪いので……どうか手心を」
感情の読み取れない何とも言えない表情をしたヴァローナは、律儀にそこに留まっていた。
ルフトが医務業務としてラトゥーリアの毛布の位置を少し治すだけで、ぴくりと動揺した様子を見せるなど、視界の隅で喧しい。ルフトも舌打ちを隠さない。
(この隊……素だと感激家さんとお茶目さんが多いですわ。本当に)
ラトゥーリアが復讐計画に賛同して緊張が大分解けたらしく、素の可愛らしい彼らが前以上によく垣間見えるようになった。
「まぁ、これで子爵夫人という肩書にも説得力が出そうで良いじゃないですか」
「え? 子爵夫人?」
「……あっ、えっ」
「まだ伝えてない……すまない……行動が先立った」
「隊長?」
ルフトのとても冷たい声色を聞いて、ヴァローナは扉の影に隠れてしまった。




