誓いの見返り
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「報酬とか、見返りなどは……その、用意できないのですが」
静かな雰囲気はラトゥーリアの一言によって霧散した。ヴァローナは思わず吹き出してしまう。
「……あはは、こっちは受け取りすぎなくらいなのに、まだ何か返し足りないの?」
「だ、だって、わたくしの戦いに付き合わせてしまうのよ?」
あれだけの事を言ってまだそんな事を言うのかと、ヴァローナは呆れを通り越して面白く感じてしまう。
だが、ふと彼元来の悪戯好きな性格が鎌首をもたげる。
「……見返りは、そうだな」
何かあるのと目を輝かせるラトゥーリアに対し、笑みを深めながらヴァローナは囁く。
「復讐が果たされた時、ラトゥーリアの全てをオレに頂戴」
それを聞いた、ラトゥーリアはみるみる顔を真っ赤にした。
「欲しがりますわね……?」
混乱のまま、とりあえずラトゥーリアは思った事を口にした。
「……この家の人々もそうなのですが、何なのですか。わたくしに甘すぎやしませんか?」
「皆ラトゥーリアが好きなんだよ。
それに、オレより先にとんでもない殺し文句言っておいて良く言うよ」
「ころ……そ、そんな、えっと」
感情の勢いのまま言葉を口にしていたせいで、自分が何を言っているのか、自覚がなかったらしい。
ラトゥーリアは今更になって恥ずかしさで目を回している。
「……わ、わたくしの世界の半分では足りませんか?」
だが、そこは元侯爵令嬢であり、取り乱した後の復活は早かった。
照れを取り繕えきれていないが、会話を続ける。
「全てって言ったでしょ。身も心も、過去も、未来もほしいな」
「欲しがりますわね」
満面の笑みでそんな要求を振って来るヴァローナに、ラトゥーリアは先の言葉をそのまま返して笑った。
ヴァローナが思わず見とれてしまう、花が開いたかのような心からの笑みだった。
「勿論、全て差し上げますわ」
そうする事ができたらどれだけ幸せなことだろう。
ラトゥーリアは心のままに、ヴァローナの額へ唇を寄せた。
今は親愛の証として、続きは未来でとの意味を込めたものだったが、ヴァローナの腕が頭の後ろへ回され、引き寄せられる。
そして、ラトゥーリアの唇にヴァローナの唇が一瞬だけ重なった。
「……ごめん、少し、先払いということで」
なんとか理性を働かせたらしいヴァローナだったが、ラトゥーリアにとってはとてつもなく刺激が強かったらしい。
取り繕って棚上げしていた照れと合わさって、気絶寸前だった。
「ラ、ラティ!?」
くったりとするラトゥーリアを抱え上げ、ヴァローナは慌ててルフトを呼びに行く羽目になった。
何事かと、大慌てで対処したルフトだったが、ヴァローナから状況を聞けば聞くほど眉間の皺を深くしていく。
見立てとしては一過性の高体温症だが、病み上がり故に長引く可能性もある。
隊長であるヴァローナの事はとても尊敬しているが、それとこれとは話が別だ。
「隊長が雪狼姫様の体調を悪化させてどうするのですか!」
「面目ない……」
相手が隊長であろうとも雪狼姫の主治医として、ルフトはしっかりと叱りつけた。
ヴァローナも背筋を丸めて態度でも申し訳なさそうに説教を聞いていた。
「ラトゥーリア様の熱が引くまで、隊長は医務室出禁です」
「そんなっ」
やっと見舞いに行ける事を楽しみとしてがんばってきたヴァローナだったが、ルフトに睨みつけられて何も反論できず、了承するしかなかった。




