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快方へ

1−18

「言葉以外も何か、歴史や社交界のマナーなど、お仕事に役立ちそうな事もお教えできそうですが……いかがでしょう?」

「ぜひ教えて欲しいです。魅力的」

「本当に?」

「勉強会、一案として、ルフトに聞いてみます。

 きっとみんなも参加したがります。いつも雪狼姫様と話せない人たちもそう。

 姉さまも、教えてもらいたい事あると思います。

 だからきっと賛成してくれる」


 思った以上にキャリコの食いつきが良い。

 自分を助けてくれた漆烏の隊員たちへ恩返しになりそうだと、ラトゥーリアはすっかりやる気になった。


「教えられるような事であればいいのですが」

「とくに姉さまは、手紙の書き方を教えて欲しいって、きっと言う」

「まぁ、それは」

「今、手紙でやり取りしてる人が、好きみたいです」


 タビーは普段こそとても素直で感情的だが、ひとたび仕事となれば冷静沈着な諜報隊員モードに切り替わる。

 徒手空拳においては隊でも上位。人の感情の機微を読み取り、即座に対応できる頭の柔らかさもあり、演技も得意だ。

 そんな優秀なタビーだが、唯一文章書くのが苦手なのだと言う。

 上流階級に取り入る時重宝する技能だからと、泣きべそを書きながらヴァローナが見繕った適当な相手と文通を始めたらしい。

 最初は練習のためだからとつまらなさそうにしていたが、最近は相手の返信を今か今かと楽しそうに待ちわびている。だから良い雰囲気になっていると、タビーは語る。

 

(……タビーが自ら相談してくれたわけでもなく、うっかり知ってしまったのは心苦しいですね)


 キャリコは純粋に姉を応援していて、咎めるのは少し憚られるが、繊細な話題だから取り扱いには十分気を付けるようにとは伝えた。

 そして、タビーから相談を受けるまでは心の奥にしまっておこうと、ラトゥーリアは決心した。


 ◇ ◇ ◇


 適度なところで歩行練習を切り上げ、ラトゥーリアはキャリコと共に医務室へ戻る。

 治りたての身体は、少し動かすだけでもかなりの疲労を蓄積する。慣れるまではしっかりとした休息が必要だ。

 コートと厚手のドレスから寝間着に着替え、軽く汗を拭いておく。

 戻って来た気配を感じ取り、ルフトも医務室へ入室してきた。

 

「おかえりなさい。どうでしたか?」

「まだまだ難しい感じはしますが、慣れては来ました」

「ただ、屋敷の移動は杖を用意すべきと思います。

 今は壁伝いじゃないと不安。杖あれば安心」

「ふむ、では、松葉杖を準備します。

 いくつか用意してみますので、後ほどお試しください」

「ありがとうございます」

 

 ラトゥーリア本人の自己申告とキャリコからの所感を書き取り、てきぱきと休息前に服用する薬を準備した。

 

「そろそろ病室ではなくちゃんとしたお部屋を用意しましょう。

 硬いベッドともこれでおさらばですよ」

「十分快適でしたが?」

「失礼な事をお伺いしますが、今までどんなベッドで寝られていたのですか……?」

 

 確かに硬めの触感ではあるものの、寝心地はとても良い。問題なく眠れる。

 そう思っていたが、感覚がマヒしているだけなのかもしれないとも考え至った。


(……執務室のソファや出張所のハンモックで寝る事が多かったですし、それに比べれば寝心地良くて当たり前ですわね。

 ベッドで寝るなんてそういえばいつぶりかしら)


 申告すれば、ルフトは顔を思いきり引き攣らせるだろうと、微笑んで有耶無耶にした。

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