快方へ
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「言葉以外も何か、歴史や社交界のマナーなど、お仕事に役立ちそうな事もお教えできそうですが……いかがでしょう?」
「ぜひ教えて欲しいです。魅力的」
「本当に?」
「勉強会、一案として、ルフトに聞いてみます。
きっとみんなも参加したがります。いつも雪狼姫様と話せない人たちもそう。
姉さまも、教えてもらいたい事あると思います。
だからきっと賛成してくれる」
思った以上にキャリコの食いつきが良い。
自分を助けてくれた漆烏の隊員たちへ恩返しになりそうだと、ラトゥーリアはすっかりやる気になった。
「教えられるような事であればいいのですが」
「とくに姉さまは、手紙の書き方を教えて欲しいって、きっと言う」
「まぁ、それは」
「今、手紙でやり取りしてる人が、好きみたいです」
タビーは普段こそとても素直で感情的だが、ひとたび仕事となれば冷静沈着な諜報隊員モードに切り替わる。
徒手空拳においては隊でも上位。人の感情の機微を読み取り、即座に対応できる頭の柔らかさもあり、演技も得意だ。
そんな優秀なタビーだが、唯一文章書くのが苦手なのだと言う。
上流階級に取り入る時重宝する技能だからと、泣きべそを書きながらヴァローナが見繕った適当な相手と文通を始めたらしい。
最初は練習のためだからとつまらなさそうにしていたが、最近は相手の返信を今か今かと楽しそうに待ちわびている。だから良い雰囲気になっていると、タビーは語る。
(……タビーが自ら相談してくれたわけでもなく、うっかり知ってしまったのは心苦しいですね)
キャリコは純粋に姉を応援していて、咎めるのは少し憚られるが、繊細な話題だから取り扱いには十分気を付けるようにとは伝えた。
そして、タビーから相談を受けるまでは心の奥にしまっておこうと、ラトゥーリアは決心した。
◇ ◇ ◇
適度なところで歩行練習を切り上げ、ラトゥーリアはキャリコと共に医務室へ戻る。
治りたての身体は、少し動かすだけでもかなりの疲労を蓄積する。慣れるまではしっかりとした休息が必要だ。
コートと厚手のドレスから寝間着に着替え、軽く汗を拭いておく。
戻って来た気配を感じ取り、ルフトも医務室へ入室してきた。
「おかえりなさい。どうでしたか?」
「まだまだ難しい感じはしますが、慣れては来ました」
「ただ、屋敷の移動は杖を用意すべきと思います。
今は壁伝いじゃないと不安。杖あれば安心」
「ふむ、では、松葉杖を準備します。
いくつか用意してみますので、後ほどお試しください」
「ありがとうございます」
ラトゥーリア本人の自己申告とキャリコからの所感を書き取り、てきぱきと休息前に服用する薬を準備した。
「そろそろ病室ではなくちゃんとしたお部屋を用意しましょう。
硬いベッドともこれでおさらばですよ」
「十分快適でしたが?」
「失礼な事をお伺いしますが、今までどんなベッドで寝られていたのですか……?」
確かに硬めの触感ではあるものの、寝心地はとても良い。問題なく眠れる。
そう思っていたが、感覚がマヒしているだけなのかもしれないとも考え至った。
(……執務室のソファや出張所のハンモックで寝る事が多かったですし、それに比べれば寝心地良くて当たり前ですわね。
ベッドで寝るなんてそういえばいつぶりかしら)
申告すれば、ルフトは顔を思いきり引き攣らせるだろうと、微笑んで有耶無耶にした。




