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療養と練習

1−17

 雪の魔女の処刑から一週間。祝勝ムードが徐々に弱まり、忙しくも平穏な日常がそろそろ戻って来る。

 ヴァローナは国中が浮かれきった今こそ敵の弱味の仕入れ時だからと、侯爵に呼ばれて他国へ遠征。

 タビーをはじめとした前線で活躍する隊員たちも、忙しなく各地へ散らばっていった。


「その調子で足を前に、後ろに」

「大分良い、感じに、なってきましたわ……」

 

 一方ラトゥーリアは順調に回復し、予定通り歩行の練習に入っていた。

 子爵邸の周囲は傾斜が少なく、やわらかな雪がふりつもっており、練習にはうってつけの場所だった。

 のろのろと脚を動かすラトゥーリアの死角には、キャリコが目となり付き添う。


「きゃっ!」

「雪狼姫様! だいじょうぶ?」

「えぇ、問題ありませんよ」


 転んでしまっても雪が受け止めるから痛くない。

 加えてルフトが用意してくれた毛皮のコートは良く水を弾き、不快にならない程度に内側の温度を保ってくれる優れものだ。

 これならいくらでも練習できると、ラトゥーリアは張り切っていた。

 ごろりと仰向けに体制を整え、すぐ立ち上がろうとするが、真っ青な空が目に入って動きを止める。

 

「空が、高い……」


 思わずぼんやりと見入ってしまった。

 幼少期、少しだけ思い出せた記憶の中をなぞるように、またこんな風に落ち着いて空を見上げられて嬉しい。

 胸いっぱいに冷たく爽やかな空気を吸い込んで、少しだけ浸っていると、身体がひとりでに浮き始めラトゥーリアは慌てる。


「そろそろ起きた方が良いです。

 風邪をひいてしまう」


 キャリコは魔法を発動し、ラトゥーリアの身体をふわりと立ち上がらせた。

 折れた骨は全て完治しているとはいえ、治りたての腕を引っ張り上げあるのはよくないと思っての事だろう。


「ありがとうございます……キャリコは本当に魔法が上手ですね」

「そうですか? これ以外何もできない。

 剣と勉強苦手。言葉も苦手」


 謙遜するが、キャリコは嬉しさを隠しきれず、視線を足元に逸らして唇をとがらせた。

 ルフトから聞いた話だが、キャリコは若くして漆烏の中で一番の魔法使いであり、魔法の腕だけで勝負するのなら隊長すらも凌駕するという。

 ラトゥーリアの一助となった夢への念話も、隊員の中ではキャリコしか発動できない非常に高度な魔法だったらしい。

 

「これだけ魔法が得意なら欠点なんて軽いものですよ。

 わたくしは魔法が不得意なので、余計に」

「……雪狼姫様が? こんなに綺麗な魔力なのに?」

「魔力に綺麗や汚いがあるのですか?」


 才能がないとはいえ、ラトゥーリアはそれなりに魔法の勉強をしてきたはずだが、魔力を綺麗だと称されるのは初めてだった。

 そもそも魔力に綺麗、汚いの概念がある事も初耳だ。

 

「綺麗だと上手、汚いと下手。雪狼姫様はとても綺麗。

 でも魔法が苦手なのは、不思議、何故」

「さぁ……わたくし、沢山練習しても小さな火を出すので精一杯でして、何が悪かったのか……」

「わかりました。それは先生が悪かった。納得」


 あまりにハッキリ言うものでラトゥーリアは面食らってしまった。

 教えてくれた先生は形無しだなと思っている内に、キャリコはぱっと笑顔になる。


 「……いいこと思いつきました。

 僕、魔法を教える。雪狼姫様、この国の言葉を教える」


 そうは言うものの、キャリコは既に差し支えないレベルで喋れている。

 ちゃんとした敬語の使い方を教えるとしても、すぐにコツを掴んでマスターできそうな気がする。

 

 これでは結局自分ばかりが得をするのではと申し訳なくなってきたところで、ラトゥーリアも案が浮かんだ。

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