3人の隊員
1−15
「頭を上げてください。
わたくしはもう侯爵令嬢ではないのですから」
「いいえ! 肩書なんて関係ありません!
雪狼姫様は雪狼姫様です!」
きりりとした態度は5秒と持たなかった。
タビーは可愛らしくも鼻息を荒くして、ただの渾名であるはずの雪狼姫を尊ぶべき肩書のように語る。
「本当はもっとお話ししたかったんです……でも、侯爵様からその場の業務の内容以外お話する事を禁じられて、その通り従っていたのが悔やまれます」
「父から……」
侯爵お抱えの諜報部隊という身の上なら、仕方のない事だろう。
個人が入手した機密漏洩の防止や、娘が必要以上の権力を有する可能性を少しでも可能性を潰したかったなど、理由は容易に想像できる。
非合理を嫌い、自分の所有物と認識したものを意のままに管理したがる父らしいと、ラトゥーリアは思った。
「私たち、元々は雪狼姫さまに助けて頂いた集落の者です。
何とかあなた様のお力になりたくて、漆烏になりました……ほら」
タビーは、隣で共に跪くキャリコを肘でつついた。
面を上げたキャリコは、精一杯言いたい事を整理しているようで、おろおろと視線が合わない。
「雪狼姫様、その、昨晩は……
生きたいか、なんて、酷い問いかけをしてしまった……ごめんなさい」
「貴方だったのですね」
彼があの質問者だったのだ。
申し訳なさそうな態度と、王国の言語に不慣れな感じから、すぐに合点が行く。
ラトゥーリア自身が生きる意志を持たなければ、助けたところで怪我や今後起こりうる困難に抗う事もできなくなるかもしれない。
今にも泣きそうなキャリコだったが、ラトゥーリアが自分へ手を伸ばそうとしていると察し、慌てて傍に駆け寄った。
「いいえ、貴方の問いかけは正しかった。
意図していた事もわかっておりますよ……本当にありがとうございます」
今できる最大限の感謝として、ラトゥーリアは安静を願い出ようとしてふよふよと行き場をなくしたキャリコの手を取り、軽い握手をした。
「あ、あわ……」
しかし、キャリコには刺激が強すぎたらしい。
身に余る光栄、どうしよう、幸せすぎる。
うわ言のように呟きながら、顔を真っ赤にして後ろに倒れ込んでしまった。
「キャリコー!?」
(姉弟揃って感激家さんなのですね……)
こちらが気恥ずかしくなってしまう程、この交流を嬉しく思ってくれている。
とても暖かな気分で、自然と頬がほころんでしまう。
「病室で騒ぐな!」
そこへ白衣の隊員が一喝入れて、姉弟はしゃきっと立ち上がった。
はしゃぎすぎたと反省を示しつつも、白衣の隊員もラトゥーリアと対面して一瞬ぽかんとしたのを見て、姉弟は少し面白がった笑みを浮かべていた。
「失礼いたします、雪狼姫ラトゥーリア様。
漆烏の一員、ルフトと申します。
貴方の主治医のようなものと認識して頂けましたら幸いです」
ルフトと名乗った隊員は、業務的だがラトゥーリアをしっかり尊重する対応を取る。
主な治療を執り行ってくれたのは彼で、命の恩人の一人であるとラトゥーリアは認識した。
「起きてすぐのところ申し訳ありません。現状の説明をさせて頂きたいのですが、よろしいでしょうか」
「……はい」
ルフトはラトゥーリアの傍まで歩み寄り、手元の診療録を見ながら説明を始めた。




