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めざめの迎え

1−14

 冬の魔女が処刑されたその次の日、地下病室のベッドで健やかに寝息を立てるラトゥーリアの右瞼が、ひくりと揺れた。

 崖をくりぬいた窓から差し込む朝日が、彼女の身をやわく温度をあたえ、覚醒を促す。


(……ここは?)


 ぼやけた視界にはまず、平に整えられた岩の天井と、質素なシャンデリア型の照明が映る。

 それらはどこかペッタリとして見え、遠近の感覚も正しいのかわからない。視界も、確実に狭まっている。


(あぁ、そう、いえば、左目が無くなってたのでした)


 一気に現実へ引き戻された心地だったが、この感覚に対して腑に落ちた。

 痛みはなく、苦しくもない。

 だが、身をゆっくり起こそうとしたところで、予想外に身体が重く、最低限の動きで左目の辺りに触れるだけにとどまった。


 ざらざらとした触感は、おそらく包帯がしっかりと巻かれているのだろう。

 妙な方向に曲がり、腫れあがっていた身体は、酷い倦怠感こそあるがほぼ健常な身体に治っていた。

 非常に素晴らしい治療を施してくれたのだと思うと同時に、素晴らしすぎて不安にもなってくる。


(そんな代償払えるほど、お金も何もないのに……)

「お……」

(お……?)


 ふと聞こえて来た声に視線を向ければ、そこには目を見開いた漆烏の隊員がいた。

 短く切りそろえられた若葉色の髪と瞳、猫のようにしなやかな体躯の、ラトゥーリアと同年代と思わしき女性だ。

 どこか見覚えがあるようなと思っていると、その陰にかくれるように控えていた一回り小さな少年隊員も、同じように目を見開きながら姿を現す。

 

「お、おお、お目覚めになられたー!

 雪狼姫様がー!!」

「良かったです! 良かったよぉ……!」

 

 二人は感情を爆発させ、涙目で抱き合った。

 女性隊員と髪と瞳の色が同じで、顔立ちも似ている事から姉弟なのだろうとすぐにわかる。

 二人ともがラトゥーリアの目覚めを心から喜んでいた。


「……えぇっと?」


 突然の出来事にラトゥーリアが呆然としてしまっていると、女性隊員の方が慌てて居直して、ラトゥーリアに向かい合う。弟の方もそれに倣って、申し訳なさそうにしている。

 

「失礼いたしました! 私たちは、漆烏の隊員です!

 決して怪しいものではありません」

「いえ、その、それは存じ上げております。

 ……あなたとは恐らく、何度か仕事でご一緒しました……よね?」


 目立つ若葉色の短髪と、彼女の声が確信の決め手となった。

 事務的な会話をほんの少し交わしたくらいで、今のテンションよりも随分落ち着いていたが、圧倒的に男性が多い諜報部隊での女性という事で、よく印象に残っていたのだ。

 

「はいっ! あの…あのっ! まさか覚えていて頂けてたなんて……感激……!」

「姉さま」

「あぁぁ……申し訳ありません」


 素の彼女はとても素直で、感激家のようだった。

 大人しい雰囲気の弟隊員と合わせて、ラトゥーリアはほのぼのとした雰囲気をこっそり楽しんだ。

 二人は再び、仕切り直しだと背筋を正し、ラトゥーリアに向けて忠誠心を現すよう膝をつく。

 

「私はタビー、僭越ながら弟のキャリコと看病を担当しておりました」

「僕は、キャリコです。

 同じく看病担当。護衛も」

 

 諜報部隊らしくきりりとした態度で、改めて二人は名乗った。

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