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悔いと怒り

1−13

 ヴァローナの慧眼と教育のおかげで、漆烏には優秀な隊員が揃っている。

 多少隊長分の穴が開いても何とかできるからと、ルフトはヴァローナを諭した。

 信頼する隊員がそう言うのならと、ヴァローナは苦笑いを浮かべ了承する。

 

「身体の擦り傷や打撲跡は問題なく完治。

 骨折の方も休養込みで一週間後くらいには歩行練習を開始できます」

「王都はこれから一週間は祝勝祭だ。丁度いい」


 王都を中心に国中がお祭り騒ぎになるだろう。他国からの客も多くなり本来なら王族をはじめとする貴族たちは大忙しになるのだが、第一王子と紅玉姫アリエラは民にまぎれて奔放に遊び回るだろう。

 引きずられるように、周囲の貴族たちもだらけたムードになると予測している。


(愚息を持った現王は大変だ)

 

 恐らく現王だけは祭りにやってくる他国の民に対し、気を張っていることだろう。

 争いを嫌い、平穏な生活を第一に考えられる優秀な王ではあるが、王位を引き継ぐ予定の第一王子に好き勝手やらせすぎている。

 そして、紅玉姫アリエラを自分の娘のように可愛がっているという。


(人間の皮を被っている以上、魔法の技術は人間の枠を出ないだろう。

 あとはアイツをこちら側に引き込んでおけば、暫くは身代わりにも気付くまい)

 

 熟考に入ろうとしてしまったが、何とか今は報告を聞いている最中だと思い出し、ルフトの話を聞くために姿勢を正した。

 ルフトは少し口をもごつかせてしまったが、腹を決めて続きを口にする。

 

 「左目は……修復できませんでした」


 報告というよりも、懺悔の方が近い程に、ルフトの言葉からは後悔が滲んでいた。

 理性的に、いつもの調子でいなければと奮い立たせていたが、本当は今にも自責の念で潰れてしまいそうだったのだ。

 

「お前はよく手を尽くしてくれた」


 ヴァローナはただ彼の気持ちを汲み、労いの言葉をかける。

 ルフトの力をもってしても不可能だったのなら、他の誰にも治す事はできない。そう判断したのだ。

 

「……眼球に鉱石の塵とみられる無数の付着物がありました。

 少量でも治癒魔法を遮断されてしまったのですが、これは……」

「ふむ……では、目を潰したのは恐らくグリース・セルドーだ」


 詳細な情報を聞いて、ヴァローナはすぐに答えを出せた。

 

「奴の家が管理するセルドー鉱山の産出物、緑啓石の仕業だろう」

 

 セルドー鉱山はレヴルナール侯爵領内南西部に存在し、強力な魔法防御装備を作るのに欠かせない緑啓石の産地として名を知られている。

 鉱脈から削り出されたらすぐに侯爵家公認の加工職人の下へ運ばれ、大切な領の財源として厳重な管理の下保管されるものだ。

 王城の騎士団勤めのセルドーに、何故緑啓石の塵がついていたのかという答えは至極簡単なものだった。


「なるほど汚職……どこまでクソなんでしょう。

 最悪な事をしでかしてくれましたね……」


 侯爵の目を盗んで、私腹を肥やしていたのだろう。

 二人は煮えたぎる怒りを何とか抑え、いつかのための刃として忍ばせておくことにする。


「……今は、ラトゥーリアの目覚めを待とう」


 これ以上怒りを貯め込むのは判断を鈍らせる事になるからと、二人は頷き合って各々の休憩室へ向かった。

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