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独断

1−11

 だが、ヴァローナから飛び出した言葉は、ラトゥーリアに再び差しかけた諦念の影を取り払う。


 血を思わせる真っ赤な魔法陣が突如ラトゥーリアの横に展開され、ごぼごぼと粘り気のある沸騰音を立てながら人の形に収束していく。

 液体から肉へ、その肉に薄い皮が貼り、毛髪と衣服が同時に生えてくる。

 植物の急激な成長を見ているようだと、働かない頭でラトゥーリアは思った。

 最後に破れたドレスと無残な怪我が再現され、この場にラトゥーリアが2人転がっているという不可思議な状態が出来上がる。


「……こ、これ」

「あなたの身代わりです。血肉を詰めて少しですが会話も可能です……

 本物より淡泊な反応になってしまうのは、心が壊れてしまったという事で通ります」

 

 これなら処刑までバレることはないでしょうと、一仕事を終えたヴァローナは得意げに語っているが、ラトゥーリアは少しぞっとする。


(これ、禁術なのでは……)

「諜報業務の上では必須なので、免除されております。

 ちなみに城に配備されている者程度では私の魔法には気づけません。ご安心を」


 いけしゃあしゃあと言うもので唖然としてしまったが、今は考えるだけ無駄なのだろうと思う事にした。


「これは、私たちの独断です」


 ラトゥーリアが欲しがるであろう情報を、ヴァローナは的確に選んで口にする。

 

「漆烏が……?」

「主にそうですが、もっといます」

「……」

「嘘じゃないですよ」


 そして、記憶の中で聞いた言葉を、彼はそのまま口にした。

 自然な会話の中で、あの時のようにラトゥーリアの顔色を読んで、そう答えたのだ。

 仮面の奥に少しだけ、赤い眼光が見えた気がして、ラトゥーリアは動かせない手を伸ばそうとした。


 「あ……あぁ……」

 

 貴方と呼ぼうとして、喉が詰まった。以降は呼吸が苦しくなるばかりで、ただ唸る事しかできなくなった。

 

「今は落ち着いて。怪我に障ります」


 ヴァローナは自分のマントを取り外し、なるべく傷に触れないよう細心の注意を払いながら、ラトゥーリアを優しく包んだ。

 

「一刻も早く治療を行わなければ……転移魔法を使います。

 少し気持ち悪いかもしれませんが、ご辛抱を」

 

 黒の皮手袋を装着した大きな手が、肩へ添えられる。

 表情は仮面に隠されているが、感情は添えられた手に震えとしてにじみ出ていた。


(……怒ってくれているのかしら、それとも泣きそうなのかしら)

 

 どちらにせよ嬉しいと思ってしまう自分は酷い人間だと、ラトゥーリアは目を伏せた。

 彼、ヴァローナ・アイル子爵がきっと、記憶の中の少年なのだろうとは思う。

 夢の質問者がすぐ来ると言っていたのだから、そうであって欲しいとも願っている。

 

(本当にごめんなさい……思い出せなくて)


 だからこそ、名前を呼べない事が苦しくてたまらなかった。

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