アストラハーニェ王国の大いなる野望と挫折
アストラハーニェ王国の王都ニコラエフカ。
この国を動かす大臣たちは王から与えられたある難題に直面していた。
「……アグリニオンの穀物商人がおこなったあの離れ業は実に見事だった」
王が口にした言葉である。
そして、その王の言葉に含まれるアグリニオンの穀物商人がおこなった離れ業。
もちろんそれは、大海賊たちと組んだアドニア・カラブリタが小麦の大量輸送するために使った例の大技のことである。
王の言葉は続く。
「アグリニオンの商人たちは山賊避けのために、これまでも転移魔法を使用していたが、それは馬車がせいぜい。海に浮かぶ船を内陸の湖に転移させる。それも八百隻を一度に。あれはまさに驚きの一手といえる。まあ、あれはかの者が大型の船を使った交易を普段からおこなっているから思いついた発想ではあるが、考えつくことと実行は別。つまり、彼らができたことは我が国の者がであってもできなくはないだろう。ということで、実現のために早急に準備せよ」
それが王から与えられたその難題だった。
もちろん王は目の前で見せられたあの荒業を自らも再現したいためにそう言っているのではない。
目障りな山賊国家の妨害で他国との自由な交易が出来ない現状の打破。
それが目的である。
実にすばらしいことである。
そして。アドニア・カラブリタがおこなった船を海上から湖へ転移させるというあの荒業はそれを実現できる画期的な方法に思えた。
だが、アストラハーニェが自らそれをおこなうためには乗り越えなければならない問題は山ほどあった。
少なくても、小役人の見本のようなこの国の大臣たちにとっては。
「船はサルトラン湖畔で建造するにしても、海上航行ができる船をつくる技術がない」
「船ができあがっても、そもそも海上でそれを操る者がいない」
「それに、今は商人と客という立場であるアグリニオンの守銭奴と競争しなければならない。そのような者が我が国にいるのか」
「そうだな。毟り取られるだけということになりかねない」
つまり、無理。
少なくても、すぐには。
それが全員の一致した意見だった。
もちろん実現可能な案としてサルトラン湖を貿易港としてアグリニオンの商人に開放するというものは提案された。
交易は盛んになり、軌道に乗ったところで、さらに一歩進めてアグリニオン以外の国の交易船も呼び込み、最終的に自前の交易船を仕立てる。
……これならば……。
「だが、王は絶対に満足しない」。
「それどころか、それを提案した者は罰せられる可能性がある」
「それならば、その案はなかったことにして葬ってしまったほうがよい」
それが彼らの最終的な結論だった。
だが、王に対して、検討したが無理でしたとは口が裂けても言えない。
そんなことを口にすれば、確実に首が飛ぶ。
物理的に。
「誠意をもって検討し、実現に向けて努力してまいります」
それが彼らの答えとなる。
結局王の望みは頓挫する。
そして、それをあっさりと実現させる者が現れるその時まで、王はじりじりしながらその実現を待たなければならないことになった。




