砂糖のひみつ
この世界に突如現れた砂糖。
その生まれた経緯についてはあくまで「偶然の産物とたゆまぬ努力の結晶」と語る大海賊だったが、実を言えばその言葉は大いなる偽りだった。
なぜなら、その作物を植え始めた男は最初からその作物から砂糖をつくるつもりであったし、さらにその男は手際こそ悪かったものの、迷いなく、正しい手順で刈り取ったその作物から精糖作業をおこなわれていたのだから。
では、なぜそのようなことができたのか?
いうまでもない。
その作物であるサトウキビの苗。
それから、そこから砂糖へと精製される方法。
それらはすべて別の世界から持ち込まれたものだったのだから。
その島に船に乗ってやってきた男は魔法を使える者であり、間違いなくここと別の世界を行き来できる者でもあった。
そして、その男が最近になって別の世界から持ち込んできたものがサトウキビの苗、それから砂糖の精製方法が書かれた指南書となる。
もちろん経験がないうえ、たいした道具も用意されていなかったので、初年度に出来上がった砂糖はあまり質の良いものではなく、量もわずかだったのだが、その男は自分をここまで連れてきた髭面の男のひとりに、株分けした苗、砂糖の製法を見事なブリターニャ語で記述した羊皮紙ともに渡す。
この言葉を添えて。
「これはあなたとあなたの一族を繁栄と幸福へと導くものになります」
それがこの世界における砂糖の始まり。
その真の姿となる。
さて、砂糖をこの世界に伝えたその男であるが、最初の砂糖が出来上がった直後、一度島から姿を消すのだが、しばらくして再びその島に姿を現わす。
美しい妻と六人の娘とともに。
「まあ、便利なところというわけでもないが、静かに暮らすにはちょうどよい。必要なものは皆あの男たちが用意してくれるわけだし」
男はそう言って笑った。
……それにしても……。
……四十年ぶりで戻ったはずなのに、元の世界では時間がまったく進んでいないことには本当に驚いた。
……そういうことなら、いっその事、全員を連れて向こうに移り住もうかとも考えたが、これだけこちらの世界に馴染んでしまった身にはあちらで生活するのはさすがに窮屈すぎて難しいだろうし、なによりもみんなが私と同じように異世界転移の枷に引っ掛かって大変な思いをするような事態は避けたい。
……とりあえず、生きてはいけるのだ。
……やはりここで命を全うすべきだろうな。
……それから、せっかく仕入れた砂糖の知識だ。
……もう少しやってみるか。
……白糖や、ここに書かれている和三盆とかをつくるのもいいかもしれない。
……将来的に砂糖の生産が拡大しても、この世界でできるのはブラウンシュガーまで。
……色の白い砂糖や、甘みが強い砂糖は簡単にはつくれない。
……それで商売ができるかもしれないし。
……まあ、とにかくこれで、ようやく私もこの世界に貢献出来た気がする。
……必要なことだったとはいえ、宗教弾圧をして多くの民を殺しただけというのがこの世界での成果ではさすがに悲しいからな。
男は心の中でそう呟き、胸を撫で下ろすように小さく息を吐きだした。