第7節
孤児院の中に入ったフィルが見たのは十数名の小さな子供と、赤い頭巾を被った老婆の姿だった。
橙色の火がついた炉を囲んで夕食が出来るのを今か今かと待っていた。
「ルイーズ様、そちらの青年は?」
ルイーズの側にいるフィルを指差す老婆。
「旅人だそうです。院長」
「そうなのですか。旅のお方、何も無い所ですがどうぞ」
ちらりと視線を子供に向けるがフィルの姿を見てからの子供の反応は様々だ。
怯える者もいれば興味津々な者もいておおよそ普通の反応と言える。
「院長、ありがとうございます。僕はフィリップと申します。どうぞ宜しく」
「はい。さぁさもうすぐご飯だよ準備しとくれ。旅のお方、よければお話を聞かせて下さいな」
「ええ勿論。喜んで」
†
食事が終わってからのフィルの感想。
出来たシチューを木製の椀に手際よく入れていく少年、切ったライ麦のパンを皆に配る少女、皆与えられた役割をこなしていた。
連携がしっかりとれているし、怠けるような子供もいない。
「しっかりしていますね。皆」
「独り立ちするために必要なことです。よく働きよく学び、そして強くならないと」
そう言うルイーズ、炉の光に照らされた彼女の横顔は親しげな笑みを浮かべ、家事をこなす様は貴族のそれではなくどこの家庭にもいるような優しい母のそれだった。
「強く……か」
「貴方はもうそれ以上強くなる必要はないのでしょうけどね」
「それはどういう……」
「さあ、今日は皆お休み!明日は畑仕事だよ!」
言いかけたところで彼女は子供にそう言い放った。
「はーい」
「おやすみなさい!ルイーズ様!」
まだ起きているルイーズとうたた寝をしている院長を置いて子供たちは皆一斉に隣の部屋にある寝床へと向かって行く。
「貴方も疲れているのでしょうが折角です、お話を聞かせてくれませんか?その……」
「『聖地奪還運動』のことですか?」
「え、ええ」
先ほどからずっと堂々としているルイーズのものとは思えない程歯切れの悪い返答だった。
「10年以上前の話です。僕は何処にでもいるような子供でした」
「……」
「この国では当時敵国に取られたままの聖地を取り返すための運動が活発化していました。ですが……」
「結果として失敗した」
思わず言葉に詰まったが、ルイーズが代弁してくれた。
「ええ、大人たちは最高の武器を持って聖地へと攻め入った。だが結局は失敗した。そしてその失敗の後、『僕』のような人間が生まれ始めた。俗にいう『聖なる子』です」
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