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第6節

 フィルが家を出てからはや三日、そして日が暮れだした頃。

 馬を走らせ続けようやく目的の村が目の前に見えてきた。

 馬上で地図を出して確認するが……ここで間違いない。

 

 「もうすぐかな。さて目的の場所は……」


 小高い丘の上にあるその村は……


 「おおっと?」


 見えてきた村だったがとても村とは思えないような規模の建物の密集具合だ。

 村の周りには畑が広がり、村には煉瓦造りの家が立ち並ぶ。

 立派な鐘塔や大きな教会すらあった。


 「まいったな……建物の配置が地図と全然違う……」

 

 目的の孤児院を探すのに時間がかかりそうな予感がする。

 こうなれば住民に聞こう、そう思って歩き出そうとした時だ。


 「どちらさまでしょう?物騒な物をお持ちのようですが……」


 フィルの前に広がる畑から誰かに呼び止められた。

 警戒の色が混じった女性の声がするが……畑に隠れているのだろうか?

 声の主の姿は見えない。


 「えーと……誰かいるんですか?」

 「ここです」

 「やぁどうもこんにちわ。馬上から失礼」


 恐る恐る声をかけ、ひょっこりと顔を出したのは小さな女の子と土を鼻の上に付けた若い女性。

 どちらも庶民が着るような麻の服を着ていたがフィルは若い女性の方に目が行った。


 (ルイーズ・ド・リオンヌ……本当にこんな場所に居たんだ……)


 シモンに渡された似顔絵の通りの風貌の女性が、今目の前に居たのだ。

 明るい色の背中まで伸びる茶髪に青い瞳、目鼻立ちも似顔絵と合致する。

 似顔絵よりも性格がきつそうではあるが。


 「僕はフィリップ。旅をしてるんですがグランドル孤児院はどこにありますか?」

 「旅人……旅人が孤児院にどんな用があるのですか?」

 「恥ずかしながら宿代がほとんど無くて、私が医療を提供する代わりに数日泊めてもらえないかと思いまして」

 「医療?」

 「僕は医者もやっていましてね」


 冷たい風が吹く中、夕暮れに照らされたルイーズが少しだけ考えこむ。

 

 「いいでしょう、私がご案内致しましょう」

 「おお、助かります。そうだ、まだお名前を伺っていませんでしたね。貴女のお名前は?」

 「ルイーズ、ルイーズ・ド・リオンヌです」

 「貴族の方でしたか、失礼を……」

 「構いません。それよりも馬でこれを運んで下さいませんか?」

 「ええ、喜んで」


 先程採取したであろうカブをフィルが乗る馬に乗せ、ルイーズと女の子と共に孤児院へと向かった。



 †



 日がすっかり落ちた頃、ようやく煉瓦造りの大きな屋敷にたどり着いた、恐らくここがグランドル孤児院だろう。

 木枠だけの窓からは炉の明かりが漏れ食べ物の匂いが漂っている。


 「ここがグランドル孤児院です。ただし入る前に一つ宜しいですか?」

 「はい、なんでしょう?」


 どうにも会った時からルイーズの警戒心が強い。

 ここにたどり着くまでの道中、常にフィルを警戒して距離をとっていたし必ず女の子とフィルの間に彼女がいた。

 

 「ここで荷物を降ろして下さい。武器も預かります」

 「大事なものなのですがね……」


 仕方がない、フィルは彼女に腰に帯びていた剣と荷物を渡した。

 特に怪しい物は入ってはいないし、剣についても説明はできる。

 問題はない……はずだ。


 「…………本当にお金は一切無いのですね。薬と道具だけ……」

 「医者ですからね」

 「だったらこの剣は?かなり古びていますが……」

 「もう10年ほどの付き合いです。それこそ聖地奪還運動時代からの」


 荷物検査をしていたルイーズの手が止まり、フィルの方へと視線が向けられた。


 「『原典を持ち帰った少年』……」

 「残念ながら僕は『彼』ではありませんよ」


 微笑を浮かべるフィルを見たあとまたルイーズは荷物に視線を戻す。

 その時一瞬、ほんの一瞬、彼女が見せた哀れむような表情にフィルは強い嫌悪感を抱いた。

 


 

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