第4節
「女の子ね、来たよ。けどそれがどうしたんだい?」
フィルの家に訪ねて来たレアはというと、不機嫌そうに酒瓶をどかしながら椅子に座る。
「村で娼婦として来た、なんて言ってたから皆に追い出されたんだよ。けど住むところがないなら世話してやろうかと思っただけさね」
「それはそれは」
レアが探している女の子、それは昨日来たミラベルに間違いないだろう。
村の皆は追い出したが、彼女だけはどうにかしようとしているようだ。
「ここにいるのかい?あの子は」
「狼に襲われて血塗れ、おまけに全身汚かったから今水浴びしてるよ。帰ってきたら伝えておくから」
「そういうアンタも大概汚いがね」
興味無さそうにレアはそう言った。
「ああそうだ、もう一つ用事があったんだったよ」
「何?」
「教会でシモン神父がアンタを呼んでたんだよ。きっとまた『出張』の依頼じゃないかい?」
「出張……ね」
シモン神父とはレアの村にある小さな教会の神父。
フィルの家まで訪ねるのが億劫なのか時折レアや村人を通じて依頼をしてくるのだ。
ちなみにフィルはあまり彼の事を好いてはいない。
「行きたくないけど、断るわけにもいかないし……弱ったな」
「行っておやり。女の子は私にまかせな」
「ああ、そうするよ」
†
白髪混じりの髪を弄っていた男がフィルを見る。
「やぁ、よく来たねフィル」
「僕をお呼びですか?シモン神父」
色々と準備を済ませて村の教会へと着いたフィル。
黒く重い扉を開けて入ったものの中には出迎えた初老の神父以外は誰もいない。
無数の長椅子と祭壇があるだけ、冷たい空気が頬を撫でる。
「君に依頼したいのは……殺しだ」
神父がおおよそ言うことはないであろう言葉だ。
だがフィルからしてみればいつもの事。
シモン神父、小さな村で神父なんてやっているがそんなものは表だけ。
本来の彼の役職は大司教……裏で教皇とつながり、こうしてフィルに殺人の依頼をしている。
「最近多いですね。それで誰を殺すんです?」
「この女性だ」
そういって出されたのは一枚の似顔絵。
明るい茶髪と青い瞳のうら若き淑女に見える。
「彼女は?」
「とある貴族のご令嬢なのだが教皇様はこの女性が疎ましくお思いのようだ。孤児院に寄付をしたり、言葉の読み書きを教えたりしているようでな」
「善人ですね」
「そうだな。だが民衆が彼女を信仰などし始めたら我々の立つ瀬がない。読み書きもだ。民衆は愚かでなくてはならんのだ」
吐き気を催す外道……それが目の前にいた。
とんでもない理由で人殺しの依頼をしようとしている。
「やってくれるな?」
さも引き受けるのが当然と言わんばかりの態度だがフィルは……
「ええ、分かりました。やり方は僕に?」
「ああ、任せよう」
フィルはなんと平気な顔をして快諾した。
「教皇様の為ならば、私はお受けしますとも」
「そう言ってもらえて助かるよ。フィル」
シモンはにんまりと邪悪な笑みを浮かべながら握手を交わした。