シンデレラについての考察
例えばシンデレラストーリーというとなんか、底辺から這い上がって成功したみたいなイメージにされているが、シンデレラは別に底辺の人間ではない。彼女はそこそこの貴族のお嬢さんである。実母が死んで父が再婚した結果、継母と義姉に虐げられることになっただけで、母からはちゃんとした教育をされていたし、母の縁者(友人か実家か何か)からの援助を受けることができたのだと考えられる。あれは成り上がりというよりは復権だ。まあ貴族としては元々王妃に選ばれるほどの家柄ではないかもしれないのでその点は玉の輿みたいなものかもしれない。ただそれはそもそも王子の側が広く求めた結果であるのでシンデレラ個人の努力というよりは幸運によるものだろう。巡り合わせというか。
大体、シンデレラが王子に見初められたのも美しかったからである。それは、持って生まれた素質が素晴らしかったから選ばれた、ということではなかろうか。勿論、境遇的に相応の苦労と努力はしているだろうが。味方と運に恵まれた話なのは間違いないだろう。運が巡ってきた時に迷わずそれを掴み取ったのはすごいのだろうが。
有名な話には類話が多い。本当に同じようなことが別々の場所であったのかもしれないし、伝わっていく内に話が変わっていったのかもしれない。物語というのは書物が一般化される前は口伝で伝わるものだった。人に話して伝えるとするなら、覚え違いがあったり、話す時に盛り上がるように変えてしまうのも当然のことである。伝え聞いた話の正確さを求めるのは学者くらいのものだ。大体の話者と聴衆は物語に面白さ、エンターテイメント性を求める。だから似たような話があれば面白いものに取って代わられて元の素朴な話が無くなってしまうという事も起こったらしい。日本で言えば雪女の話が有名だ。小泉八雲の怪談で語られた後、それ以前の話が途絶えてしまったという。
シンデレラの特徴として、美しいという事以外に語られがちなのは足が特別小さいということである。それは姉たちの足が彼女の靴には入らないという物理的な証拠の為の要素ではあるが、こう考えることもできる。足の小さいことを美しいと思う土地が原話の生まれた土地なのでは?実際、中国にもシンデレラと似た筋を持った物語は存在する。なんなら日本にもあるし、エジプトあたりにもある。意外と広い地域で類話の語られている話なのである。
ちなみに中国の纏足、足をキツく縛るなどして成長を阻害して小さいままにする風習は、一説によるとそれで歩き方の不安定になっているところを愛でるものらしい。勿論、女の逃げたりするのを防ぐためではないかという説もある。いずれにせよ、足にハンデを抱えることになる風習なのは間違いない。奇しくも、姉たちのつま先や踵を切り落として履かせるタイプの筋の場合、継母は王妃になれば自分で歩く必要などないと言って切っている。実際のところ王妃になった後のシンデレラがどう過ごしたかを具体的に語られている話を私は知らないので継母の発言の真偽はわからないが。
人間の足の成長は大体、12.3歳、大きくなる人でも14,5歳くらいには終わるというので、シンデレラの足が小さいのはその成長限界を迎える前でこれから普通程度に成長するのだ、という解釈もできなくもない。だがその場合、シンデレラが幼い子供になってしまうので、多分違う…とは思うのだが、白雪姫は七歳児くらいという話も聞いた覚えがあるのでどうなのだろう。
類話の中には、このシンデレラの継母というのは二人目の継母で、一人目は二人目に唆されたシンデレラが殺してしまっているのもあるらしい。何故そのようなワンステップを入れたのかは不明だが、その殺害方法は"ねずの木"の童話で継子が殺された時のものに似る。何かしらの繋がりがあるのかもしれない。
継母の連れ子が姉であるため、ある意味でシンデレラは末子成功譚であるともいえる。実際、義姉たちは王妃に選ばれることを失敗しているのだ。そして同じ試練にシンデレラは見事合格してハッピーエンドを迎えている。姉や継母の扱いはバッドエンドが多いが、何らかの改心が見られたのか姉を大臣の嫁に推すものもある。まあ鳥に目玉をくり抜かれるなどのあからさまなバッドエンドは当然、見下していた妹の花芯という立場に甘んじることになることが姉たちにとって本当にハッピーエンドとなるかはわからないが。あるいはそれは屈辱的なバッドエンドであるかもしれない。