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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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悪役令嬢って何で出来てる?2

「あっ、いけないっ! そろそろ戻らないと……!」

 小屋からユナ達が出て来る気配に、アナベラは慌てて、裏庭の中央、モーニングルームの前まで走り、生垣いけがきの陰に、子ウサギみたいに飛び込んだ。


「あんま、無理するなよ? シャーロット様が、心配なのは分かるけど。ちゃんと休んで」

「『ちゃんと食べる』でしょ? 大丈夫!」

「そっか……」

 にかっと笑ったユナの頭を、ぽんぽんと、大きな手で撫でながら、すごく優しそうに見つめる、すらっとした黒髪の――あっ、思い出した! あの人、ウィル兄様の従者じゅうしゃだ。それに……

『ユナさんの婚約者ですよ』って、少し前にベティが、教えてくれたっけ。


「いいな……」

 手を振り合って、それぞれの職場に向かう二人を見てたら、しゃがんだ足元に、ぽつんと言葉が落ちた。

「ウィル兄様が、シャーロットお姉様を見る時と、おんなじ目してた」

 ユナのこと、ホントーに大切に、思ってるんだな。

 わたしも将来、もし結婚するなら、そんな人がいい。

『まだまだ、10年くらい先の話だけど』って、呑気に考えてたのに……。



『困った騒ぎ』を思い出して、どんよりとうな垂れてた顔を、はっと起こす。

「それより、さっきの――『悪役令嬢』!」

『悪役』って、お芝居とかお話に出てくる、すごーく悪い人の事だよね?

「主人公をいじめる継母とか、姉とか……つまり、『ものすごーく悪い令嬢』ってこと? わたしがっ⁉」

 むむーっと、眉根を寄せて、「失礼しちゃうっ!」って、ほっぺたをふくらませたとき、


「アナベラ様―っ! どこですかー⁉」

 ベティの呼ぶ声が、近づいて来た。

 さっき久しぶりに癇癪(かんしゃく)起こして、八つ当たりしちゃった事が気まずくて。

 それにまだ一人で、『悪役令嬢』の事、考えたかったから……見つからないよう、迷路になった生垣いけがきの奥に、こっそりと足を進める。

 身体を少しかがめて、足音を立てないように、奥へ奥へ。


「さっきの『八つ当たり』には、ちゃんと理由があるの! 『お母様の、困った騒ぎ』のこと、シャーロットお姉様に、早く相談したいのに。ベティや皆がわたしだけ、仲間外れにするから……だからわたしは、『悪い令嬢』じゃないわっ!」

 自分に言い聞かすように、小声で言い訳したとき――迷路の先に、ぴょこんと動く物が見えた。



「あれっ……何?」

 急いで足を進めると、角を曲がった先にいたのは、ぴょこぴょこお耳を動かす、真っ黒な子ウサギ。

「ナツ⁉ 小屋から、出て来ちゃったの?」

 慌てて近寄ると、ナツの後ろから、生垣にはめ込まれた、小さな扉が現れた。

 上半分が丸くて、ブロンズ色の取っ手が付いた、ちょうどかがんだ子供が通れるサイズの、木の扉。


「なんでこんな所に、ドアが?」

 目を丸くしたアナベラの前で、ぴょんっと得意げに、後ろ脚で立ち上がったナツが、キィッと取っ手を引いて、ドアを開けた。

『おいでよ』というように、ほわほわな前足で手招きして、ぴょんっと扉の中に。

「えっ……ナツ⁉」

 びっくりして駆け寄った時、ぴゅうっと、いきなりの突風に背中を押されて


「きゃーっ!」

 元悪役令嬢は、扉の奥、真っ暗な穴の中へと、落ちて行った。


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