表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

98/155

【番外編2】悪役令嬢って何で出来てる?1

「はぁーっ……」

 時は5月。

ウィルフレッドとシャーロットの結婚式から、早くも7ヶ月が過ぎ。

 満開の白薔薇が、美しく咲き誇る、兎穴の温室で。

 アナベラ・ギボンは、からになったケーキ皿に向かって、深いため息をいた。


「アナベラ様? 今日のタルト、美味しくなかったですか?」

「違うっ! ベリータルトは、いつもと変わらず、絶品だったわよ!」

 自分付メイド、ベティの、心配そうな問いかけを、きっちり否定してから、

「さっきのため息の訳は……『一体いつになったら、シャーロットお姉様に会えるの?』ってこと!」

「それは――仕方ないですよ。今回は、シャーロット様のお具合が……」

「分かってるわよっ!」

 アナベラ達がこちらに来る前日から、急に体調が悪くなって。お茶会どころか、食事もあまり、喉を通らないらしい。


「わたしだって、心配してるのに……どこがお悪いの? お風邪? まさか――わたしみたいに、髪の毛切られたり、してないわよね⁉」

 やっと少し伸びて来た、癖の強い黒髪の毛先を、イライラひねりながらの質問攻めに、

「髪の事まで、心配しなくても……えっと、タルトのお代わりはいかがですか?」

 ミセス・ジョーンズやユナに、たずねた時と同じ、小さな子供をなだめる様な顔で、口ごもるベティを見て

「もういいっ――‼」

 カッと、頭に血が上ったアナベラは、レディにあるまじき勢いで、椅子にナプキンを叩きつけ、温室を飛び出して行った。



 初めて、シャーロットお姉様と会った時、

『こんなにキレイで髪も長くて、優しい声でにこにこ笑って――「生まれた時に妖精たちから、目一杯祝福された、お姫様」みたいな人――お兄様に好かれて、当然じゃないっ! 不公平だわ! 神様のばかっ‼』

 と、特大の癇癪玉かんしゃくだまを、爆発させて。

「あなたがウィル兄様の婚約者だなんて、絶対認めませんから!」と宣戦布告して、客用寝室に閉じこもった。

 でもそれから色々あって、ワガママだった自分を、ちょっと反省して。

 今まで気付かなかった、気にも留めなかった――ベティや、周りの人達の優しさを、『ありがとう』って、素直に受け止めると、心がほんわり……子ウサギを抱っこした時みたいに、温かくなるって発見した。


 それからは、毎月遊びに来る度に、お姉様と家政婦のミセス・ジョーンズと、乳母と侍女のユナ、新しい家庭教師のソフィー先生とベティ。時には、元家庭教師のヴァイオレット先生も参加して。

 皆で仲良く、おしゃべりしたり笑ったり、楽しくお茶会をするのが、日課だったのに。



「もうすっかり、みんなと『お友達』になったって、思ってたのに……何なの何なのっ、ベティまで――人を子供扱いして! わたしだってもうすぐ、11歳に……」

 ぶちぶちと、以前のように、不平不満をこぼしていた口を、はっと閉じる。

 子供扱いも嫌だけど……急に大人扱いされるのは、もっと嫌だった!


 シャーロットに、相談しようと思っていた、『困った騒ぎ』を思い出して、アナベラの足取りが、急に重くなる。

「こんな時に限って、ソフィー先生も、お留守だし」

 家庭教師は以前からの予定で、朝からヘア村まで、知人に会いに出かけていた。


 はーっとまた、大きなため息を吐いたとき、菜園で作業をしていた、庭師のトム・エバンズがふと、こちらを向いた。

 いつも色々な野菜や花や、ハーブの話をしてくれる、仲良しのおじいさんだけど……こんなむしゃくしゃした気分の時に、顔を合わせたくない。

 気付かないふりで前を向いて、さっさと裏庭に出た所で、自然と足は、兎小屋に向かった。



『ナツたちに会って、慰めてもらおう』

 小屋の前に着き、いつも扉横に下がっている、鍵が無い事に気が付く。

「あれっ?」

 中かられ聞こえて来る、小さな話し声。

 扉を細く開けてみると、

「……でもアナベラ様は、タイミング悪かったな、せっかく来たのに」

 いきなり、自分の名前が聞こえて、どきりとした。


『この声、どこかで聞いたこと、あったような……?』

 首をかしげて、記憶を探っていると

「そうなの。お嬢様に『急いで、相談したい事がある』らしいけど、まだお会いするのは無理で――今日はかなり、『ご機嫌斜め』になってるみたい」

『あっ、この声――「ユナ」!』

 聞き覚えのある侍女の声に、すうっと息を吸って――『「ご機嫌斜め」には、理由があるのよっ!』と、叫ぶ準備をしながら、扉を開けようとした時


「『ご機嫌斜め』か――まさか、『悪役令嬢』復活とか?」

 からかう様な、笑い声に

「ちょっと、やめてっ! アナベラ様はもう、『元悪役令嬢』だから!」

 あせった様に返す、ユナの声が、耳に飛び込んで来た。



「『悪役令嬢』……って、わたしの事?」

 初めて聞く言葉――なのに、

「すごく、イヤな響き……」

 愛らしい子ウサギたちの住む、平和な小屋の上。

 急に日差しをさえぎった雲が、さっと暗い影を落とす。


 日陰の寒さに、ぶるりと身体を震わせながら、『元悪役令嬢』アナベラは、両手をぎゅっと握り締めた。


番外編2スタートしました。

前回の『星月夜の誓い』に、ブクマや評価等ありがとうございました!

今回は元悪役令嬢アナベラが、「『悪役令嬢』って何?」という謎の答えを、探すお話です。


「はじめまして」の方、本編3章が、アナベラメインのお話になっております。

よろしかったら、のぞいてみて頂けると、嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ