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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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星月夜の誓い5

「ミック……どしたの?」

 隣を歩いていたユナが、心配そうに声をかけて来た。

 前世の思い出と事故の記憶、天使とのやりとりからウィーズルの事件まで、ダッシュで脳内を駆け抜けて、気が付けば額には、じっとり汗が。


「体調悪い? ちょっと休もうか?」

「ごめん、ちょっと考え事してた。前世の――友達の事、思い出して」

 ぶるっと頭を振って、記憶を追い払い、何気なく告げると

「そっかぁ。友達――って、女子?」

 前を向いたまま、軽く返して来た。

 さり気ない聞き方だけど、目を合わせて来ないから、気にしてるのが丸わかり。

『可愛いなぁ……』と、自然に口角が上がり、やっと記憶の連鎖から、抜け出せた気がした。


「あっ! やっぱ、『彼女』なんだ‼」

 つい笑ってしまったのを、さらに誤解されて、つないだ手をほどこうとするから

「違うって! ――『男友達』」

 逆にくんっと引き寄せて、耳元でささやく。

「……ほんと?」

「うん。俺の『師匠』」

 ほんわり赤くなった耳の先に、ついでに『ちゅっ』とキスしたら、「ひゃっ」って声を上げて

「もぉっ――調子乗んなっ」

 真っ赤な顔で、ぐいぐい押しのけてくる。

 あぁ可愛い……。



「そっか――イラストの『師匠』、だったんだ?」

「うん。最初に偶然、描いてるとこを見た時、ゴッホの有名な絵をトレースしてて。『ホントの油絵みたいだ!』って、すっごくびっくりした」

「えっ、デジタルで? すごい! そんなこと出来るの⁉」

 目を見張ったユナに、

「うん。油彩ゆさいツールとか、筆タイプの、タッチペンとか使えば」

 少しうすれた記憶を、たどりながら、答えると

「そっかぁ……まだまだ、前世でも知らない事、たくさんあったんだなぁ」

 少し高台になった場所にある、見晴らし台みたいな、平らな大きな岩に、並んで座った婚約者が、しみじみとつぶやいた。


「そんなの、俺の方が山ほどあるよ、きっと」

 大学生だったユナに比べて、俺はまだ高3だったわけだし。でも、年下だったのは『秘密』――何となく。

 まぁ、こっちでは俺の方が、三歳年上だし。

「小さい頃から、お絵描きは好きだったけど。師匠に会わなかったら、『自分も、あんな風に描いてみたい』なんて、思わなかったろうし。去年、『ウェディングドレス総選挙』の見本絵描く事も、なかっただろうし」

「そっか! ――それは『師匠』に、大感謝だね!」

 ユナが笑顔で、ぽんっと両手を合わせた。


 前世で(亜矢姉に何度も、ダメ出しくらった)『シャーロットの立ち姿』を描いた経験も、生かされたのかな?

 俺が『千バラのキャラ設定』に、少しだけ関わっていた事は、いつかユナには、打ち明けたいと思ってるけど。


「ねぇ、師匠が描いていた『ゴッホの絵』って、どんなの? わたし、『ひまわり』くらいしか知らないけど」

 小首をかしげて、ユナがたずねる。

 その頭上、雲がオレンジに染まり出した空に、ほんわりと浮かぶ、白い月。

「こっち……登ってみて」

 手を貸してゆっくりと、岩の上にエスコート。

「あっち、見て」


 伸ばした指の右下に、ヘア村の家々と教会の尖塔。その奥に広がる丘が見える。

 左手にそびえる、一本の大きな糸杉。ここサウザンド王国では、扉の資材として人気らしい。

 そして右上、南西の空に、ぼんやり輝く、昼の三日月。


「この空が夜空で、渦巻うずまくみたいな星を何個も散りばめたら……その絵、『星月夜』に、そっくりなんだ」

 数年前、偶然ここに登ったとき、『まじかっ!』て叫んで、誰かに話したくてたまらなかった。

 夢がまたひとつ、かなったな。


 風に乗ってふわりと、アーモンドの花びらが飛ぶ。

「わぁっ……この景色もステキだけど、星が出た時も、見てみたいなっ!」

 光をはじくように笑う、ユナの髪や肩に、ちらほらと止まる、白い花びら。

 まるで、花嫁のベールみたいに。

「うん、今度来よう」



 一緒に見よう。

 前世でも知らなかった、色んな景色を、夢の続きを。

 二人こうして、手をつないで。


 俺たちが結婚して、子供が生まれて大きくなって、そろって歳を取るまで。

すこやかなる時も病める時も――ずっと一緒に。


 前世の桜に似た、白い花びらが舞う中。

 この世界の『星月夜』の前で、恋人(つな)ぎをした『あの子』に、ミックは誓った。


『星月夜の誓い』完結しました。

たくさんのご訪問、ありがとうございました。(3万PV越え感謝です!)

拙いお話ですが、少しでも楽しんで頂けましたら、嬉しいです。

ブックマークや評価(ページ下部の☆☆☆☆☆)も、よろしくお願いいたします。


次の番外編は、元悪役令嬢アナベラがメインのお話を予定しております。

また読んで頂けるように、頑張ります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いやーーーー、もう! ミック大好き! こんな短い感想で申し訳ないですが、 ミック大好き!
[良い点] ミックは前から良い奴だと思っていましたが、そんな事情だったのですね……再会できて、ハッピーになれて、本当に良かったです! 星月夜と、一面に舞う白い花びら、そして恋人つなぎ…… なんて素敵な…
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