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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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星月夜の誓い4

「〇〇〇さん……?」

 気が付くと俺は、真っ白な部屋に、ぽつりと立っていた。


 淡い色で発光する、どこまでも広がる壁と床。

 家具も何も見当たらない、ひたすら静謐せいひつな世界。

「大丈夫ですか? わたしの声、聞こえてますか?」

 心配そうに問いかける、頭上に光る輪っかを乗せた、どこか見覚えのある、同世代ぽい女の子。

 その顔の下、ゆったりとした、白いロングワンピの背中には、大きな白い羽が付いていた。


「……ひょっとして、天使?」

「はい、天使です」

 あっさりと認められて、はたと気付く。

「じゃあ――俺、死んだんだ?」

 あの、トラックにかれて。

「はい。それはその通りなんですが、ほんの少し、手違いがありまして……」

 眉を寄せて、天使が言いよどむ。

「手違い?」


 何でも本当は、あと50年以上、寿命が残っていた俺と、あの隣にいた子が、書類上のミスで間違って、死んでしまった……という『手違い』。

「いやーっ、役所の上司が未だに、『FAXで送った書類しか、受け付けない』と言い張る、アナログ至上主義でして。いい加減、メール添付てんぷくらい許可しやがれ……おっと、失礼。

 とにかく、申し訳ございませんでした!」

 ぶちぶちと日頃の不満を、愚痴ぐちっていた天使が、テレビの『謝罪会見』で良く見る角度に、深々と、頭を下げた。


「手違いってことは、俺もあの子も、生き返れるんだよな?」

 ならいいか。と呑気のんきに、奇跡の生還シーンを、思い描いていると

「あ、それは出来ません」

 あっさりと、拒否られた。


 時間を巻き戻すとか、起きてしまった事を変えることは、いくら天界でも、タブーらしく

「その代わり……あなた方だけに! 『転生先』を特別に、お選びいただけますっ!」


 ①同じ世界に生まれ変わる。(ただし前世の記憶は消える)

 ②違う世界に生まれ変わる。(前世の記憶付き)


「こちらの二択――さぁ、どっち!?」

 ……って、TVショッピングじゃあるまいし、そんな簡単に選べるかーっ‼


 また同じ世界に生まれても、赤んぼからのスタートだし。

 師匠にもう一度会って、『待ち合わせ、行けなくてごめん』って謝りたかったけど、記憶が消えるんじゃ無理だし。

「かと言って『異世界転生』も、マンガや小説みたいで、何か現実味ないし」

『奇跡の生還』を拒否られたショックから、剣道で鍛えたメンタルで、ようやく復活して。

 何とか前向きに、来世を選ぼうとしたけど……正直もう、どっちでもいい。


「いやいや、滅多にない特権ですよ! ぜひ選択を!」

 目をキラキラさせて詰め寄る、天使の顔。

ずっと気になっていた……

「あのさ?」

「決まりましたか⁉」

「あんたの顔、ひょっとして……」

「あっ! 気が付いちゃいました? 一般の方に『天使』の顔出しは、NGですので……『あなたが亡くなる瞬間に、強く心に残った方』のお顔を、今だけお借りしております!」


 えっ……て事は、『あの子』を思いながら、死んだの、俺?

 うーっわ、恥ずかしーっ! 

 まるで、映画か小説みたいじゃん。『全米が泣いた……!』みたいな?

 いやいや、あれはあれだよ。『あの子』を助けられなかった、後悔とかそういう……

「そうだ!」

 ふいに、思いつく。


「決まりましたか⁉」

「あの子、あんたが顔を借りた彼女は、もう選んだのか?」

「あぁ、はい。あちらはすぐに、選択されました」

 そっか……なら、答えは決まった。

「俺は、『あの子が選んだ世界に転生』を、選ぶ」


 あの子が転生先で、もしまた危険な目に会ったら――今度こそ助けたいって。

 なにより――あのキラキラした笑顔に、もう一度会いたい――って思ったから。



 それから、ミカエル・ドッゴとして、サウザンド王国に生を受け、父親が事故で亡くなったのを機に、7歳の時、マーガレット叔母さん(母の幼馴染おさななじみで、兎穴の家政婦)のツテで、ヘア村に。

 前世の記憶を思い出したのは、初めて兎穴(ヘア伯爵家の屋敷)を訪れ、ウィルフレッド様に会った時だった。


 ぶわーーっ!と頭の中に、前世の記憶が流れ込んできて、

「生きてる……!」

 と、ひと言叫んで、高熱出してぶっ倒れて。

 母さんやマーガレット叔母さんに、死ぬほど心配かけた。

 兎穴の一室で数日、療養させてもらっている間、心配したウィルフレッド様が、何度も顔を出してくれて。同世代の男子同士、あっという間に仲良くなれた。


 貴族の血が、ほんの少し混じっていた(父方の祖母が、貧乏貴族の娘)おかげと、兎穴領主の援助もあり、次期領主と同じ、上流寄宿学校パブリックスクールで学びながら、『従者』を目指した。

 ウィルフレッド様のそばにいれば、この世界に転生した『あの子』に、きっと会える気がして。



 シャーロット様の馬車が到着した時、篝火かがりびに照らされた瞳をキラキラさせて、うっとりと、お二人を見つめる『侍女』を見た時、『あの子だ』って、直感した。

 図書室の窓にいるのを知って、わざと剣道の構えと『小手こて』を見せて、『ビッグメック』で、確信した。


 せっかく『転生仲間』って、確認し合えた途端、ユナが人質になって――縛られて意識のない姿を、窓から見た時は、怒りで、頭が真っ白になった。

「これ以上犯人に、指一本触らせるかっ!」

 突入計画を説明しながら、いつも冷静な俺が、怒りとあせりを押さえきれない様子に、執事のミスター・アンダーソンも従僕仲間も、驚いた顔を見せたけど、そんな事(かま)う余裕もなくて。

 無事に助け出せたときは、神様とあの時の天使に、マジで感謝した。



 そういえばユナには、『転生先』を選んだ記憶が、無いらしい。

 事故の記憶も、『何となく覚えている』だけ。


 大丈夫。 俺がユナの、『あの子』の分まで覚えてるから。

 また何か起こっても、必ず俺が助けるから。


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