星月夜の誓い3
※最後に『交通事故』の描写があります。血やケガ等、直接的な表現はありませんが、苦手な方はご注意ください。
「じゃーん! ついに来週、配信開始……『サウザンド ローズ ~千本の薔薇をきみに捧ぐ~』‼」
亜矢姉から来たLINEメッセージに、添付されたURLを開くと、『事前登録受付中!』の大文字とストーリー紹介の下に、登場キャラのプロフィールとイラストが。
「おぉーっ! これが例の……すごいじゃん、〇〇〇!」
放課後の教室で、バイト代で買うタブレットの品定めを、一緒にしていた『師匠』が、弾んだ声を上げた。
「うん、うん! キャラも皆、それぞれ個性あるし――いい感じだなっ!」
ばしばし、背中を叩かれて
「いやいや、俺が描いたのは、『会議用の参考イラスト』だから。師匠にも前、見てもらったろ? こっちは本職のイラストレーターさんが、復帰してから描いた方!」
慌てて、訂正すると
「でも、この軍人とか、こっちとこの立ち姿は、おまえのイラストが、元だよな?」
確信を秘めた声で、聞いてきた。
「まじで?」
いや俺もちょっと、そんな気がしたけど……『自惚れんな、気のせいに決まってる!』って、速攻全力で、否定してた。
「まじ、まじ」
こくこくと、頷いた師匠が
「やったな!」
と、全開の笑顔で、両手を上げて来た。
「「いえー-っ‼」」
中学の試合で、初めて『一本』取った時と、同じ位嬉しい――今世でもはっきり思い出せる、ハイタッチだった。
「そうなの! あんたのイラストが気に入ったからって、それをアレンジして、イラストレーターさんが、描いてくださったんだよ、『立ち姿』!」
『ナイショだよ』って、亜矢姉が教えてくれた。
「よしっ、お祝いに――『「千バラ」の特別モニター』、させてあげよう!」
なぜか、配信直前のゲームまで、プレイすることに。
「男子が『乙女ゲーム』って、誰得だよ?」
げんなりしながら、始めてみたら……これが意外と、面白かった。
普通の乙女ゲームは『プレイヤー=主人公』らしいけど、このゲームは『プレーヤー=侍女』で、主人公シャーロットの恋を、サポートする役割。
「なるほどなるほど……いやジェラルド、かっけー! やっぱこの軍服、大正解! シャーロット、美人さんだな~! ドレスの立ち姿描いた時は、二度と見たくないって思ったけど。きりっとしてて、優しいし可愛いし……これはウィルフレッドもメロメロに――いや、メロ過ぎだろっ」
とツッコミ入れながら、思った以上に楽しく、『ウィルフレッドルート』を、攻略出来た。
これは、他のルートも、気になるな。
そういえば、亜矢姉と師匠から
『この「ミカエル』って、ちょっとあんた(お前)に、似てない(か)?』って言われたけど。
……いやいや、そんな、おこがましい! 全然、カケラも似てないって! なんたってモデルは、世界的有名(予定)グループのメンバーだし!
「よしっ、次は――『ジェラルドルート』!」
結局、何となく手を付けられなかった、『ミカエルルート』を残して、他ルートも一通り、クリアしてしまった。
そして、待ちに待ったバイト代が、振り込まれた、翌月の日曜日。
師匠に付き合ってもらって、待望の『液タブ』を買いに行くことに。
実は師匠にも、今までの指導とタブレットレンタルのお礼に、欲しがってた最新のタッチペンを、プレゼントする予定。
あと、ずっとシリーズで読んでる、北欧ミステリーの新作が、文庫になったから、本屋にも寄って……。
心の中でスキップしながら歩いてたら、待ち合わせした最寄り駅の、手前の信号に引っ掛かった。
『もうすぐ着く』ってメッセージを送って、ふと周りを見渡した時、隣に立つ女子のスマホ画面が、偶然目に入った。
画面の中には、ラベンダー色のドレスを着た銀髪の美少女と、その手を取る金髪のイケメン。
『サウザンド ローズ』だ! しかも『ウィルフレッドルート』‼
『すごく、綺麗だ……』
画面のセリフに合わせて、隣の子が嬉しそうに、口角を上げる。
わくわくと、楽しんでプレイしてるのが、丸わかりの――きらきらと、光が弾けるみたいな――こっちまで、嬉しくなる笑顔。
少しだけ明るいブラウンの、緩くねじってまとめた髪に、ナチュラルメイク。
今までの元カノとは、全然似てないけど、ちょっとタイプ……かも。
信号待ちの間、わずか1分半の一目惚れ。
信号が変わったら、二度と会えない相手だけど。
今まで付き合った、数人の彼女とはいつも、向こうから告られて、付き合い始めた。
『いいな』と思う子がいても、さり気なく、好意を伝えるのが苦手で――『お前将来、付き合うより先に、いきなりプロポーズとか、しでかしそう!』剣道部の友達に、からかわれた言葉を思い出しながら――さり気なく見ていた、横顔の向こう。
黄色から赤に変わったばかりの信号を無視して、こちらに突っ込んでくるトラックが、目に飛び込んで来た。
「えっ!」
フロントガラスの向こうに、何か発作でも起こしたのか、頭をがっくり垂れた、運転手の姿。
ぱっと横に目を戻すと、エアポッズを耳に付けた彼女は、何も気づかずに、青になった横断歩道を、渡り始めていた。
「戻れっ――!」
夢中で歩道に足を踏み出し、右手を伸ばして、強く腕を掴む。
「えっ……⁉」
驚いて振り向いた瞳。お互いの手から滑り落ちたスマホ。オフホワイトのカーディガンの肩を庇うように、両手で抱きしめた所で
ガンッツ――‼
凄い衝撃が来て、吹っ飛ばされた感覚。また衝撃。
そして、暗転。




