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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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【番外編】星月夜の誓い1

 兎穴(うさぎあな)領主の結婚式から、半年程経った、ある晴れた、春の日の午後。

 ヘア村の学校から、徒歩5分の場所に建つ、こぢんまりとした、ハチミツ色の屋敷の玄関から、一組の男女が出て来た。


「ご招待、ありがとうございました、ターナー先生。今日のお茶もお菓子も、とっても美味しかったです! 特にあの、『フルーツケーキ』――絶品でした!」

 玄関前の石段に立ち、うっとりと力説する、兎穴の侍女、ユナ・マウサーに

「あらあら、お口に合って、良かったわ!」

 この屋敷のあるじとメイドが、嬉しそうに顔を見合わせる。

「フルーツケーキは日持ちしますから、良かったらこちら、お持ちください」

 先生の元教え子、メイドのアガサがにっこりと、小さな籠に入ったケーキを、ユナに差し出した。


「わぁっ、お土産まで……嬉しいです! ありがとうございます!」

「そんなに喜んでくれて、こちらこそありがとう、ユナさん。うちの息子なんて、いつも無表情で、『ああ』とか『うん』とか返すだけよ!」

「あ、それ、照れてるだけです! 絶対内心、喜んでますよ」

「やっぱり? 素直じゃないわねーっ!」

「ですよねーっ!」

「「ねーっ!」」と、声をそろえて盛り上がっている、ベテラン教師と侍女の後ろで

「ちょっと、二人共――本人の目の前で、やめてくれる?」

 ウワサの『うちの息子』こと、ミカエル・ドッゴが、深いため息をいた。


「それにしても、最初はびっくりしたよ! まさかターナー先生が、ミックのお母さんだったなんて……」

 プロポーズから2ヶ月後、『改まって返事するのも、恥ずかしいから――いっそ、ベタで行こう!』とクリスマスに、(メイド友達のエマに、編み方を教えて貰った)手編みのマフラーのプレゼントを渡したいきおいで、ユナは『OK』の返事を告げた。


 大喜びのミックに、『ヘア村に住む母親に、会って欲しい』と連れ出され、緊張しながら訪れた屋敷。

「あれっ、ここって……ターナー先生のお宅だよね?」

 下宿人のヴァイオレット先生を訪ねて、主のシャーロットや元悪役令嬢のアナベラ、新しい家庭教師のソフィー先生達と、何度か来た事がある家。

 でも先生方の他に住人は、まだ若いメイドの、アガサだけだったはず……?


 首をかしげたユナの前で

「うん。その『ターナー先生』が、俺の母親」

 にやりと、悪戯いたずらっ子の顔で、答えた婚約者は

「ミカエル……! 事前にきちんと、説明しなさい! ユナさんが、びっくりしてるでしょ⁉」

 出迎えたベテラン教師に、むちのような口調で、ぴしりとしかられた。

「『ドッゴ先生』だと、呼びづらいから、学校では、旧姓の『ターナー』を使っているのよ――ようこそ、ユナさん!」

 と一転、嬉しそうに笑った顔は、よくよく見れば、ミックにそっくりだった。


「今日は、ヴァイオレット先生が、お留守で残念……あっ! もちろん、お義母(かあ)様とのお茶会は、いつでもとっても楽しいけどっ!」

 前世の桜に似た、アーモンドの白い花が咲く、兎穴までの並木道を、二人並んで歩きながら、あわてて付け加えたユナに、

「休暇で帰って来てるジェルさんと、釣りに行ってるんだって? 向こうも楽しんでるといいな――それ、持つよ」

 優しく答えたミックが、左手を差し出す。


「ありがと」

 ケーキの籠を手渡すと

「こほん……」

 そこで従者が、咳払せきばらいをひとつ。

「こちらがまだ、いてますよ――レデイ」

 芝居のセリフと仕草のように、うやうやしく差し出された右手に

「ぷっ……」

 思わず、口角を上げた侍女が、

「しょうがないから……エスコート、させてあげる」

 薬指に指輪をはめた左手を、大きなてのひらからませた。


「『恋人(つな)ぎ』、転生先こっちでも出来るとは、思わなかったな……」

 うっかり小声で、つぶやいたミックに

「へーえ……前世では、たくさんご経験が、おありのようで?」

 低い声で、返すユナ。

「えっ――ないない! そんなに無いよ!」

 慌てて否定すると、すっと目を細めた婚約者が

「それで? まだ何か、秘密にしていることは?」

 クールな女刑事のように、たたみかけてくる。


「もう無いってば!」

「ほんとに?」

「本当にっ……!」

 きっぱりと返しながらミックは、『今世では』とこっそり、心の中で付け加えた。


昨日、別ページで始めた『番外編』ですが、今までブクマ等してくださった方には、更新が分かりづらい事に気づき……こちらに移動しました。

不慣れの為、バタバタしてすみません。

「はじめまして」の方も、ご訪問ありがとうございます。


こちらのお話はミック目線で、前世で『千バラ』に関わった事情や、この世界に転生した理由等を綴って参ります。

これからも、よろしくお願いいたします。


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