5章エピローグ(そしていつまでも幸せに)
◇◇◇
ボーン、ボーン……秋の穏やかな朝日が差し込む、兎穴の使用人棟に、7回、時計の音が響いた。
朝の身支度と朝食を済ませた使用人達が、1階のホールに集まる。
「あっ、おはようミック……!」
「おはよう、ユナ!」
笑顔で手を振るわたし、ユナ・マウサーの左手薬指には、銀色の指輪。
「おはようございます」
「「おはようございます‼」」
よく通る渋い声で、朝礼を始めた執事さんに、皆と一緒に挨拶を返しながら、小さな鉛筆片手に、エプロンのポケットを探っていると、隣に立つミックが、「ほら」と、半分に折ったメモ用紙を渡してくれた。
「ありがと」
小声で返しながら、用紙を広げると、隅っこに
『次の休み、代理人のお屋敷に招待されたけど、一緒に行く?』
と、メッセージが。
わーい、デートだぁ!
横目で見ると目が合って、こっそり『うんっ』て頷くと、婚約者は、嬉しそうに目を細めた。
あー……その顔、好きだな。
「では次に、今日の予定を……」
おっと今は、朝礼に集中!
お嬢様の結婚式、そしてプロポーズから、ちょうど一年。
ミックは従者の仕事を少しずつ、従僕のニコラスことニックに任せながら、代理人の仕事を引き継いでいる。
わたし?
わたしは、相変わらず……
「もーっ、朝から仲いいね!」
「いいなぁ! わたしも、彼氏欲しいよー!」
エマとジェインに、からかわれながら
「じゃあまた、お昼か夕食に!」
「うん!」
ミックに手を振って、奥方の間に急ぐ。
「あっ、指輪!」
薔薇の透かし彫りの入った婚約指輪を、あわてて外して、ドレスの下に鎖で下げる。
「これで良しっ」
シャーロット様は、『着けたままでも大丈夫よ』って言ってくださるけど、もしあの綺麗な銀髪に、引っかけたりしたら、大変だから……わたしのメンタルが!
結婚式の後、ジェラルド様は海軍に戻られた。
でも2、3ヶ月おきの、長いお休みの度に帰って来て、『ジェルさんファンクラブ(ニック代表)』一同に、大歓迎されている。
もちろん、ヴァイオレット先生には、最優先で会いに行かれて、ヘア村の学校でも人気者らしい。
元悪役令嬢のアナベラも、式の後で一旦、ギボン子爵家に帰ったけど、毎月のように、メイドのベティと、新しい家庭教師のソフィー先生と一緒に、泊りがけで遊びに来ている。
ウィルフレッド様とシャーロット様はもちろん、家政婦のミセス・ジョーンズも、新しいエプロンを縫いながら、その日を心待ちにしている。
どれもこれも、『千バラ』からは、想像も出来なかった未来。
少し前に、ミックが
『ユナがよく、「何でこんなに次々と、原作に無い事が、起こるんだろ?」って言うけど……転生した人生でも、何が起こるか分からないから、楽しいんじゃないかな?』
って、言ってたっけ。
うん、確かに。
頷きながら、階段を昇り、扉をノックして
「おはようございます、シャーロット様!」
元気よく、部屋に入ると
「おはよう、ユナ」
ベッドに起き上がったお嬢様、いえ奥方様が、にっこりと答えてくれた。
あぁっ……今日も麗しい! 朝からファンサ、頂きました‼(感涙)
「お嬢様! 急いではいけませんよ、ゆっくりゆっくり――はい、ばあやの手に掴まって」
先に来て、朝食を整えていたおばあちゃんが、慌てて手を差し伸べた。
「おばあちゃん、また『お嬢様』に戻ってる」
「仕方ないだろ! ご結婚されても、母親になっても、わたしのお嬢様には、変わりないんだから!」
ふんっ! と鼻息を強くするおばあちゃんを見て、くすくす笑うシャーロット様のお腹は、ふっくらと膨らんでいる。
後もう少しで、赤ちゃんが生まれるんです!
「予定日は、来月……楽しみですね!」
「ええ……待ちきれないわ!」
おばあちゃんと二人で、ハイウェストのゆったりした、ドレスに着替えるのを手伝い、きちんと安定した椅子に座ってもらって、髪を整え終わった所を見計らったように、コンコンとノックの音。
「おはよう、奥方! それから、わたしたちの子供も、ご機嫌いかがかな?」
部屋に入って来たウィルフレッド様が、にっこりと、一輪の白い薔薇を差し出した。
「おはようございます、旦那様。 わたしもこの子も、とっても元気……あっ!」
嬉しそうに薔薇を受け取って、挨拶を返したシャーロット様がいきなり、驚いた声を上げる。
「「「どうした(されました)、シャーロット(様)‼」」」
侍女と乳母と領主が、我先に駆け寄ると
「今……この子が、お腹を蹴りました」
ほんわりと頬を染めて、それは幸せそうに、白ばら姫は答えました。
Happy Ever After……。
(ユナの日記より)
最終章の5章、完結しました。
ブックマークやいいね、評価や感想をくださった方、足を運んでくださった方、本当にありがとうございます。
皆様のおかげで、完走することが出来ました!
本編はこれで完結ですが、ミックやアナベラ目線の番外編を、予定しています。
『読んでもいいよ』と思ってくださった方、ブックマークや、このページの下にあります☆☆☆☆☆から評価を入れて頂けますと、書くパワーに変換されます。
よろしくお願いいたします。




