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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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驚きの花婿付添人

「シャーロット、綺麗だよ……まるで天使が、舞い降りたようだ」

「ありがとう、お父様」

 先に出た花婿達を追って、花嫁とその父、付添人(つきそいにん)代理の侍女が、ウルフ公爵家の馬車で、教会に向かう。


 早くも目頭を熱くした、狼城領主が

「やっぱり、あの若造わかぞうにはもったいない……今ならまだ式を、中止出来るな?」

 と口走り、

「お父様――そもそも13年前、ウィルフレッド様との婚約を、お決めになったのは――お父様よね?」

 静かな声で、目の中に入れても痛くない、愛娘にたしなめられて、


「わかっとる……だが、今は和平を結んでいても、かつては敵同士。お前がこちらに旅立ってから、『兎穴の連中に、いじめられているのでは⁉』と、心配で心配で。何度も様子を見に、行こうとしたのだが」

 そのたびに『シャーロットはもう、ヘア伯爵家の嫁。娘の嫁ぎ先に、呼ばれてもいないのに、しゃしゃり出るなんて――狼城領主の名が泣きますよ!』と奥方からも、たしなめられた事情を話し、しょんぼりとうなれる、花嫁の父。


「あのっ旦那様、狼城の皆は、元気ですか?」

 場を取りなそうと、声をかけた侍女に

「おぉ、ユナ! ユナも一段と、綺麗になったな。皆元気で、会いたがっておったぞ」

 にっこりと、ウルフ公爵が答えて

「お父様、ユナとばあやには、こちらに来てから、本当に助けてもらったわ。ユナがいてくれたから、無事にこの日を迎えられたのよ!」

「それはそれは――世話になったな。ありがとう、ユナ」

「そっそんな、勿体もったいないです……!」

 あわあわと、侍女が首を振って、公爵と令嬢が、にっこり微笑み――なごやかな雰囲気のまま、馬車は教会の入口に到着した。


 おごそかに、パイプオルガンがかなでる賛美歌に合わせて、父親と腕を組んだ花嫁がゆっくりと、祭壇さいだんに向かう。

 参列者たちから、ため息がれる中、しとやかに、花嫁の後ろを歩く付添人は、

『えーと、まず牧師様のお言葉の後で、花婿と花嫁が誓いの言葉を述べて、それから指輪の交換。その時に、ブーケを預かって……』

 先日のリハーサルを必死に、脳内再生していた。


 待ち受けていた花婿に、しぶしぶといった様子で、花嫁を渡した公爵が、通路の左側、最前列の、妻と息子の隣に座る。

『ここで、式の邪魔にならないよう、横に……ん?』

 ユナが左側に、はけようとしたとき、同じく逆サイドに移動していた花婿付添人と、はたりと目があった。

「ミッ……‼」

 思わず叫び出しそうになった声を、必死で飲み込む。

 同じく、驚いたように目を見開き、握ったこぶしで口元を押さえている花婿付添人は、ミックこと、ミカエル・ドッゴだった。


『待って待って! 花婿付添人は、弟君のヒューバート様だったはずじゃ?』

 さり気なく、参列者の方に目を向けると丁度、扉の隙間すきまからこそこそと入り、『寝坊しましたーっ!』と、大きく顔に書いてありそうな、くしゃくしゃの髪で、前領主夫妻の隣に滑り込む、弟君の姿が。

『ミックも急遽きゅうきょ、代役にされたのか……』

 同情を込めた眼差まなざしを、そっと送ったら、なぜかあわあわと、顔を赤くしている。


 いつもの制服じゃなくて、花婿とおそろいの、つやのある黒のフロックコートに、アイボリーのベストと白のアスコットタイ。

(ウィルフレッド様のベストには、金糸で刺繍が入って、左胸に白薔薇のコサージュ付き)

 前髪をはらりと落として、黒髪をでつけているせいか、なんだかすごく、大人っぽく見えるな。

『……って、そんな場合じゃなかった!』


「新郎ウィルフレッド・テレンス・ヘアは、シャーロット・ウルフを妻とし、すこやかなるときも、めるときも……」

 張りのある声で、牧師が問いかける、『誓いの言葉』。

「はい、誓います」

 と花婿が、はっきり答える声が聴こえる。


『この後、新婦に問いかけて、それから誓いのキス……!』

 絶対に見逃さないよう、式に集中しなくちゃ!

 ぎゅっと薬指の指輪ごと、ユナは両手を、強く握りしめた。


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