まさかの花嫁付添人
翌日の午後、狼城から領主夫妻と跡取りの長男、ポートリアからは、すっかり元気になった、前兎穴領主夫妻とテリー伯父様が、続々と到着した。
抱き合って再会を喜んだり、『はじめまして』の挨拶を交わしたり、賑やかに沸き立つ、来客たちの中心には、笑顔のウィルフレッドとシャーロット。
その後、遠方からの親族達も到着し、お茶会に晩餐会、翌日の準備……花嫁花婿はもちろん、使用人全員が、目の回る忙しさの中、ユナはミックと話す間もなく、結婚式当日を迎えた。
「ミックが、ずっと留守にしてた理由は、『ストランド警察を、手伝っていたから』って、ウィルフレッド様から、お聞きしたけど……」
詳しい事は、教えてもらってないし、あの『手紙』の意味も、まだ分からないし――もやもやした気持ちを抱えて、奥方の間に、向かう侍女。
「おはようございます、シャーロット様」
「おはよう、ユナ!」
ベッドに起き上がり、にっこりと微笑む、本日の主役を見た途端、『もやもや』は綺麗さっぱり、どこかに吹き飛んだ。
湯あみを手伝い、髪を整え、乳母やメイド数人と、ウェディングドレスを着つける。
プリンセスラインのスカートの上に、バッスルを重ねて、薔薇の白刺繍やレース、粒パールで飾られた、長い裳裾がふんわり広がる、真っ白なドレスに、肘までの手袋。
ダイヤの飾りが付いた、パールのネックレスとピアスを付け、ベールを被せた髪には、伯爵家代々に伝わるティアラと、白薔薇の生花。
「……お美しいです、お嬢様」
「本当に、なんてお綺麗」
「妖精のお姫様、そのものです!」
口々に賞賛の声を上げる、侍女とメイド達、そして
「お嬢様の花嫁姿を、拝めるなんて……もういつお迎えが来ても、わたしは満足ですよ!」
「ほらほら、アメリア――お迎えなんて、まだ早いですよ。お二人の赤ちゃんとか、これからまだ楽しみが、たくさんありますからね?」
早くも泣き崩れた乳母が、家政婦に慰められた途端
「お嬢様の赤ちゃん……! もしお迎えが来ても、追い返します‼」
元気百倍になり
「もう――二人共、気が早くてよ」
花嫁が初々しく、頬を染めた。
「こちらの準備は、終わったから――エマとジェイン、ユナの方をよろしくね?」
「「かしこまりました‼」」
ほわ~っと、花嫁に見とれていた、侍女の両腕を、メイド友達二人が、がっしりと掴む。
「えっ……なになに?」
「いいから、いいから」
「こっち来て、ユナ!」
部屋の奥に置かれた、衝立の向こうに連れて行かれ
「はい、脱いで!」
「なんで……⁉」
「いいから、いいから」
制服の黒いメイド服とエプロンを脱がされ、白いドレスを着せられて
「ちょ、こんな豪華なドレス……何で、わたしが⁉」
「いいから、いいから」
整えられた髪に、白い薔薇を飾られる。
「あれっ、そのネックレス――指輪?」
「あ、うん。仕事中は、付けられないから……」
「綺麗だね! せっかくだから、今日は指にしたら?」
最後に、エマとジェインに勧められて――何が何だか分からないまま、ミックから貰った指輪を、右手薬指にはめた。
「「出来ましたー‼」」
じゃーん! と、衝立の向こうに押し出されて、鏡の前で、花嫁と並ばされる。
「とっても綺麗よ、ユナ!」
「本当に、よく似合ってるわ!」
「まるでお前まで、お嫁に行くみたいだねぇ……」
花嫁と家政婦に、口々に褒められ、祖母がまた涙ぐむ。
ウェディングドレスより、スカートのボリュームを押さえて裳裾を取り、飾りをシンプルにした他は、すっかり同じデザインの、少しだけアイボリーがかった、白いシルクのドレス。
「あの、これってもしや……『花嫁付添人』のドレス、では?」
混乱しながら、尋ねるユナに
「まぁ、ご明察」
にっこりと、答えるシャーロット。
「付添人は、ヴァイオレット先生ですよね⁉ なんでわたしが?」
「それが学校の方の急用で、どうしても式に間に合わないと、連絡が入ったのよ。だから……」
『よろしくね、ユナ?』と花嫁に、小首を傾げて微笑まれ、その愛らしさ、清らかさには逆らえず、
「んんん゛……っ、はいぃーっ!」
こっくりと、思わず頷いてしまう、侍女であった。




