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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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特効薬の材料探し

『大変だ!』と『どうしよう⁉』が、頭の中でぐるぐる、追いかけっこしている侍女の目の前で、駆け寄ったジェラルドに、抱き上げられたシャーロットが、屋敷内に運ばれる。


 近場のモーニングルームのソファに、そっと下ろされてから、

「誰か村まで、ブライス先生を呼びに行って!」

「厨房から氷水と、布を!」

 医者を呼ぶ手配や、足首を冷やす応急処置に、走り回る使用人仲間。

「シャーロット.....!!」

 部屋に飛び込んで来たウィルフレッド、そして何よりも大切なあるじが、ぐったりとソファに横たわる姿を――部屋の隅でただ呆然ぼうぜんと、ながめている侍女。


「ユナ! しっかりおし……!」

 その肩を、両手でつかんだ乳母が、強くすった。

「おばあちゃん……どうしよう。わたしが、『ハルを捕まえて』なんて言ったせいで、お嬢様がケガを……結婚式は、もう明後日なのに!」

 おろおろと、告げた孫娘に

「そう思うんだったら――こんな所で、ぼんやりしてるヒマは、ないだろ⁉」

「えっ……」

 びしっと、さとした声を返す。

 思わず顔を上げたユナに、いくつかの単語が書かれたメモを、祖母は手渡した。


「カモミール、ミント、ローズマリー、エキナセア……これって?」

「『痛み止めの湿布しっぷ』に、使うハーブさ。お医者様の湿布よりだんぜん、良くくはずだよ。何たって、狼城に代々伝わる『特効薬』」「分かった! すぐに取ってくる‼」

 話の途中で飛び出して行った、孫娘の後ろ姿に

「やれやれ――これで少しは、元気が出るといいけど」

 乳母がつぶや

「あんなに心配して――心が痛みますね」

「仕方ありません。ユナさんは『蚊帳かやの外』に、いて頂かないと」

 家政婦と執事が、そろってため息をいた。


「カモミールにミント、それから……『エキナセア』って何⁉」

 メモを復唱しながら裏庭に出て、ハーブ園に向かって、猛ダッシュしていた侍女に

「あらっ、ユナ! どこ行くの?」

 菜園の前にいた、元悪役令嬢が、声をかけた。


「アナベラ様! ハーブ園まで……あのっ『エキナセア』って、ご存じですか⁉」

「『エキナセア』? 初めて聞くけど――ハーブの名前?」

 きょとんと首をかしげた、アナベラの後ろから

「赤や白やピンク、綺麗なお花が咲く植物よ。葉っぱとお花、乾燥させた茎や根も、痛み止めの飲み薬や傷薬になるの。それから、湿布にも使えるわ」

 すらすらと流れるように説明したのは、植物学が専門の新しい家庭教師、ソフィー・セロウ。


「わあっ、さすがソフィー先生! その『エキなんとか』、ここにもあるの?」

「えぇ、ハーブ園で見かけたわ――『エキなんとか』」

 教え子の賛辞さんじに家庭教師は、明るいお茶色の瞳を細めて、くすりとうなずいた。


 ソフィー先生とアナベラに助けてもらいながら、リストにあったハーブをそろえて

「ユナさん、厨房ちゅうぼうから、籠を借りてきました!」

「ありがとう、ベティ!」

 アナベラ付メイドが、用意してくれた、籠に入れる。


「誰か、ケガしたの?」

 元悪役令嬢の、心配そうな問いかけに

「えっと……メイドの友達が、ひどく足をくじいてしまいまして」

 何とか誤魔化ごまかして、答えると

「そう――早く良くなるといいわね?」

「お大事にって、伝えてください」

「お大事に!」

 ソフィー先生、ベティにアナベラが、口々に『お見舞いの言葉』を伝えてくる。


「ありがとうございます! 手伝ってくださった事も。本当に助かりました!」

 三人に、ほっこりとお礼を言って、ハーブの入った籠を、大切そうに抱えたユナは、何よりも大切なお嬢様の元へと、走って行った。


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