式のリハーサル
翌日の午前中、ヘア村の中心にある教会の前に、伯爵家の馬車が止まった。
「ウィルフレッド様にシャーロット様――ようこそ、お出で下さいました」
初老の牧師に、にこやかに出迎えられた一行は、教会の中に。
「ではまず、ウィルフレッド様と花婿付添人が、先に入場致します。その後で、シャーロット様と御父上――ウルフ公爵様が、花嫁付添人を従えて入場。そして祭壇前で……」
ベテランの牧師がよどみなく、式の流れを説明した後で、一通り動いてみることに。
花婿付添人は弟君のヒューバート、花嫁付添人はヴァイオレット先生に決まっているのだが、二人とも本日は来られないので、付添人はベテラン従僕のニコラスとユナ、そしてウルフ公爵の代わりにジェラルドが、それぞれ代役を、務めることになった。
花婿達が入場した後
「そろそろ、行くか?」
いつもの軍服姿のジェラルドが、くの字に曲げた、左腕を差し出す。
「はい、お父様」
くすりと笑いながら、シャーロットが、右手を添えた。
「ユナ? 準備はいい?」
教会の扉の前で、振り返る花嫁の装いは、落ち着いた紫がかったグレーのドレスに、揃いの小さな帽子。
ウエディングドレスもベールも、まだ身に着けていないのに、少し上気した顔は、輝くように美しい。
「はいっ、お嬢様……!」
万感の想いを込めて、侍女は頷いた。
リハーサルを終えて、教会から出て来た領主とその婚約者に
「おめでとうございます!」
「シャーロット様、今日もなんてお綺麗……!」
「明後日、楽しみにしてますよー!」
噂を聞きつけて、いつの間にか集まっていた村人達が、声援を送る。
「ありがとう」
にこやかに、手を振る二人の後ろでは
「ジェルさん、めちゃめちゃかっこよかったです! 本当に花嫁のお父さんみたいで――俺、もらい泣きしちゃいました!」
花婿付添人の代役を務めた、『ジェルさんファンクラブ代表(会員は全員男子)』のニコラスことニックが、熱く感想を語り
「『お父さん』……? それは、褒め言葉なのか?」
「もちろんっす!」
少し困惑しながらジェラルドが、軍服のポケットに入っていたビスケットの包みを
「食べるか?」
と差し出す、謎のファンミーティングが、開催されていた。




