表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

78/155

侍女の日記22

◇◇◇

 こんばんは、ご無沙汰してます。ユナです……(しょんぼり)


 そもそもの始まりは、5日前――ちょうどヴァイオレット先生の、新しいお仕事が決まって、アナベラのお母様が、謝罪に来た日でした。

 その日、ウィルフレッド様宛に電報が届き、翌日ミックを連れて急遽きゅうきょ、首都ストランドに出向くことに。


「タウンハウス(首都にある屋敷)関係の用事で、ちょっと留守にするけど、明日には戻るから」

 とシャーロット様に約束した通り、翌日の夜遅く、ウィルフレッド様は帰って来たのですが

「まだ少し、確認する書類があって――ミックに任せて来た。すぐに済むはずだから」

 にっこりと告げられた日から、もう3日。

『大丈夫。ミックはストランドで、領主代行のお仕事をしているだけ。仕事が終われば、すぐに戻って来る』

 って、分かっているのに……胸の中から、まった煙突のようにくすぶる、不安を追い払えない。


 不安の出処でどころの一つは、早朝に出発するので直接会えないからと、家政婦のミセス・ジョーンズが預かって、後で渡してくれた『ミックからの手紙』。

 その内容が

『もう、友達でいるのはめる』って……いきなり、どーした⁉(ガーン)


 わたし何か、嫌われるような事したかな……⁉

 オタクトーク全開で、『ウィシャロ(ウィルフレッド様とシャーロット様=推しカプ)のたっとさ』を、連日(しゃべ)り倒したから?

『今日のシャーロット様、激萌げきもえランキング』を毎晩、夕食後に発表したせい?

 それとも……

 心当たりがあり過ぎて、辛い(涙)


めないよ』

 裏庭で、告げられた時の事が、何度も、頭の中をよぎる。

 逆光で見えなかった、ミックの顔は――あの時本当に、笑っていたのかな?


『突然のご報告で恐縮きょうしゅくですが、この(たび)一身上の都合で、兎穴を退職することとなりました。ストランドの新しい職場でも、今までの経験をかし、頑張っていく所存しょぞんです。ユナ様の更なるご健勝けんしょうとご活躍を、心よりお祈り申し上げます』

 なんて、ビジネスメールの例文みたいな手紙が、いきなり送られて来たら、どうしよう……?


 悶々(もんもん)と考えながら、裏庭から使用人食堂に向かう途中、見慣れない従僕達と行きかう。

『結婚式で人手がいるから』と、臨時でやとわれた数名の使用人の他に、ウィルフレッド様が戻ってから更に、従僕やメイドが5名程、追加されたのだ。

 そしてこれも、不安になる要因よういんのひとつ。

 追加で雇われた、体格の良い従僕が、気が付くと、さり気なくそばにいて――なんだか、見張られているような気がして、落ち着かない。

 シャーロット様は「気のせいよ」と、笑ってらっしゃるけど。


 新人のレベッカさんも、追加組で唯一のメイド。

 年上(25歳くらい?)でクールな、黒髪の美人さんだけど、使用人食堂で会うと、気さくに話しかけてくれる。

「そういえば少し前に、泥棒が入ったって、ホント!?」

「うん……」

 あの事件を思い出すと、またミックの事が頭に浮かぶから、口ごもっていると

「そうそう! うちの家宝の指輪をねらって、ウィルフレッド様の伯父様に変装して」

「書斎に立てこもって、拳銃撃ったり……ユナなんて、人質にされたんだよ!」

 エマとジェインが、口々に説明してくれた。


「大変だったわね――怖かったでしょう?」

 レベッカさんの向かいに座る、やはり新人のエルシーさん(こちらは先に雇われた、おっとり金髪美人)も、心配そうに声をかけてくれる。

「うん。でも、皆が助けてくれて――犯人も、無事捕まったし」

 あの時最初に、窓ガラスを割ったのは、ミックのアイデアで

『ほらよく海外ドラマで、特殊急襲部隊が、窓ガラスをけ破って、突入するだろ? あれを、参考にしたんだ』

 って、ちょっと得意げに、笑ってたっけ。


 またぼんやり、思い出に沈んでいたら

「その家宝のバイオレット・サファイア、また狙われたら大変じゃない! きちんと、しまってあるんでしょうね⁉」

 レベッカさんが、よく通る、大きな声で聞いて来た。

 あれ? 『バイオレット・サファイア』って、誰か言ったっけ? 


「……うん。今は――『書斎の、隠し戸棚』に、保管してるって――ミスター・アンダーソンが、おっしゃってたけど?」

 頭の中の警告音を聴きながら、ゆっくり答えると

「そう……なら、安心ね?」

 満足そうにうなずく、黒髪美人。


 何だか引っかかる……けど、事件の事は新聞にも載ったし、『バイオレット・サファイア』の事も、そこで見たのかも?

 こんな時にミックがいれば、すぐ相談出来るのにー!

 はっ! 今まで何でも相談して、頼り過ぎたのが重荷になって、逃げたくなった、とか……?(ガーン)


 とっとりあえず、レベッカさんの件は念のため、ミスター・アンダーソンに話すとして。

 明日はいよいよ、結婚式のリハーサル――推しカプのために、気合入れないと!

 両手で頬を、ぱんっ!と叩いて、

 仕事中は、ドレスの下に鎖で下げている、ミックから貰った推しグッズ(指輪)を、ベッドサイドテーブルの小皿に、そっと置く。

「明日こそミックが、帰って来ますように……」


 おやすみなさい。



(ユナの日記より)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ