侍女の日記21
◇◇◇
こんばんは、ユナです!
ヴァイオレット先生のお仕事も、無事に決まったし、アナベラのお母様も、謝ってくれたし(これがウワサの、『ざまぁ』?)――良かった、良かった♪
子爵夫人が帰ってから、裏庭にいたジェラルド様にシャーロット様が、先生の仕事が決まった事を、報告すると
「そうか――それは良かった」
目を細めて、嬉しそうに頷く。
「ジェル兄様は、『ヘア村の学校が、教師を募集してる』ことを、誰に聞いたの?」
不思議そうに、尋ねる従姉妹に
「あぁ……食堂で、従僕連中が話してたのを、ちょっと小耳に、挟んだんだ」
少し照れた顔で返して、片手に持ったソーセージロール(ソーセージの中身を、さくさくのパイ生地で包んだもの)に、かぶりついた。
なるほど、あの学校の卒業生とか、村に実家のある人もいるし……情報が集まる訳だ。
さすがジェラルド様! 使用人食堂で、食いしん坊のふりをしながら、実は情報収集をなさっていたとは……!
と、しきりに感心していたら
「ユナ――ジェル兄様が『食いしん坊』なのは、『ふり』じゃなくて『デフォルト』でしょ? ヴァイオレット先生の事だから……あんなに一生懸命、情報を集めたのよ?」
あとで奥方の間で、ご兄妹がお茶している時に、シャーロット様が教えてくれた。
……という事は、ジェラルド様もヴァイオレット先生のことを⁉
「どうりで――あいつ、眼鏡をかけてない時にも、すぐに『先生』って、分かったわけだ……」
『負けた……』と、がっくりうな垂れる、イーサン様。
「お兄様……昔先生が初めて、狼城で過ごしたクリスマスのこと、覚えてらっしゃる?」
首を傾げた、妹の問いかけに
「クリスマス……? 何かあったか?」
きょとんと、次代狼城領主も、首を傾げる。
「先生がクリスマスカードを、一枚も受け取ってない事に、最初に気が付いたのも――ジェル兄様だったのよ?」
「そういえば三人で、カードを送った事があったな!」
「そうね」
やっと、記憶を探り出した兄に
「そして、ジェル兄様は――今でも、忘れずに毎年、カードを送ってらっしゃるのよ?」
妹はにっこりと、とどめを刺した。
えーと、先生はシャーロット様の8歳上だから、今27歳で、ジェラルド様がイーサン様と同じ歳の24歳。
17歳と14歳で出会って――それから10年間、ずっとクリスマスカードに、想いを託して来たって……なんて、ロマンティック!
「兎穴に来て、気が付いたの。独りぼっちで、知らない場所で、知らない人達に囲まれて過ごす事が……どんなに寂しくて、心細いか」
お嬢様が、ひっそりと呟く。
「わたくしには、ユナも、ばあやもいてくれたけど」
「先生は一人きり、だったんだもんな」
頷いたイーサン様に、
「先生だけじゃなくて、ジェル兄様もよ?」
シャーロット様が、初めて出会った頃を思い出すように、彼方を見る目で告げました。
「そうか……そうだったな」
『勝てるわけないか……』と俯いて、髪をくしゃりとかき上げた、イーサン様に
「でも……お兄様も、ステキだったわよ?」
宥めるように微笑んだ、シャーロット様が
「ギボン子爵夫人に、『先生がレディ・ヴァイオレット』だという事を、教えたのは――お兄様でしょ?」
驚きの推理を、披露。
「……何で、分かった⁉」
「えっ……!そうだったんですか⁉」
思わず、イーサン様と被りながら、叫ぶと
「ミスター・アンダーソンに聞いたの。昨夜の晩餐の後、お兄様がウィルフレッド様に、なにやら相談しながら、こそこそ手紙らしき物を、書いていたこと。それから今朝早く、ギボン子爵家にだけ、結婚式の招待状を、早馬で届けさせたことも」
その招待状に、先生の出自についての手紙を、忍ばせたんでしょう?
にっこりと、推理を紐解いた、『名探偵白ばら姫』。
「……その通りだよ」
はーっと、ため息を吐いて
「子爵夫人の当たりが強かったのには、俺がアナベラ姉に狙われている事も、関係あったんだろーなって、お詫びも込めて。余計な事して――また『ノーグッドです!』て、叱られるかもな?」
「そんな事ないわ。傍で見ていたわたくし達も、気持ちがすっとしたもの。きっと『ソーソーグッドです!』って、言ってくださるわよ?」
優しく答えた妹に
「そうか……だったら、良かった」
何か吹っ切れたように、目を細める、イーサン様。
「明日、狼城に帰るよ」
「あら、もう? アナベラ様のお姉様の件は、大丈夫なの?」
「うん。逃げてないで、ちゃんと断る。このまま放置して、また迷惑かけたら大変だし」
『これ以上カッコ悪いとこ、見せたくないし?』
口の中で呟いて
「じゃあ、またな……!」
振り向きざまに、笑顔で片手を上げて……ラスボス、イーサン・ウルフは、去って行きました。




