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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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子爵夫人の謝罪

 兎穴に戻り、ヘア村の学校に、就職が決まったことを、皆に報告したヴァイオレットに

「これから――会いたくなったらすぐに、お会い出来るのね!」

「先生、わたしも会いに行っていい?」

 嬉しそうなシャーロットとアナベラが、はずんだ声を上げる。

「もちろんよ! いつでも大歓迎!」

 学校の(そばにある、ターナー先生が元教え子のメイドと、暮らしている家に、間借りする事も決まった先生は、全開の笑顔で答えた。


 そんな時、

「失礼致します、シャーロット様! ただ今――ギボン子爵夫人が、お見えになりました」

 執事のミスター・アンダーソンが、足早に、奥方の間に入って来た。

「えっ、お母様が……⁉」

 驚いて、目を見張るアナベラ。

「アナベラさんに、会いにみえたの?」

 公爵令嬢の問いかけに

「いえ、『お約束はしていませんが、ぜひ、レディ・シャーロットとレディ・ヴァイオレットに、お会いしたい』と……」

「「レディ・ヴァイオレット?」」

 そろって首をかしげた、先生とシャーロットだったが、とりあえず、客間に向かうことに。


 執事が開けた扉から、侍女をしたがえ、部屋に入ると――ぱっと、ソファから立ち上がった、アナベラにはあまり似ていない、青ざめた顔の子爵夫人が

「レディ・ヴァイオレット――あなたが、前シープ伯爵のご令嬢で、ウルフ公爵夫人が後見人で、いらっしゃる事を存じ上げず――大変な失礼を! どうかお許しください!」

 深々と、頭を下げた。


 貴族の爵位は、『公爵→侯爵→伯爵→子爵→男爵』の順で、貴族社会の中、その上下関係は、厳しく守られている。

 上位の伯爵家の令嬢(しかも、バックに公爵家付)に、下位の子爵夫人が、確固かっこたる証拠もない『うわさ』を理由に、無礼ぶれいを働いた事が広まったら、社交界から爪弾つまはじきされても、おかしくないほど。


「レディ・ギボン……どうぞお顔を、お上げください」

 落ち着いた声をかける、ヴァイオレット。

「無責任な噂を信じて、あなたを解雇してしまったことを……許してくださいますか?」

 恐る恐る顔を上げた、子爵夫人に

「はい。ただ――もしまた、わたしの事に限らず、そんな『噂』を、耳にされたときには……事実かどうかを、きちんと確かめてから、判断なさると――約束してくださいますか?」

 真摯しんしな顔で、問いかける。

「はい、必ず、約束致します! ありがとうございます!」

 子爵夫人が、ほっとした顔を、また下げた時、

 コンコン……

「お母様――きちんと先生に、謝った?」

 ノックの音の後に、アナベラがひょこっと、顔を出した。


「まぁ……アナベラ⁉ 少し会わない間に、感じが変わったわね!」

 久しぶりに会う末娘を見て、驚いた声を上げる母親は、この秋流行りの、鮮やかなグリーンの外出着と、大きな羽根の付いた、そろいの帽子を身に着けて、いかにもお洒落しゃれやおしゃべりが大好きな、ふわふわしたご婦人に見える。

「感じって?」

「その髪型、すっきりしてて、良く似合っているし……なんだか急に、あか抜けたみたいよ!」

「そっ、そうかな?」

 しきりと感心している母親に、今までほとんど、められた事などなかった、元悪役令嬢は――照れた仕草で、少しだけ伸びた髪をでた。


『ギボン姉妹で、美人じゃない方』と、言われてきた末娘を、まじまじと見直して

「レディ・ヴァイオレット……改めてまた、アナベラの家庭教師を、お願い出来ないでしょうか?」

 子爵夫人が恐る恐る、『お願い』を、口にする。


「それが――次の仕事先がもう、決まってしまいまして」

「まぁ……それは残念ですわ! 今度は、どちらのご令嬢に?」

「いえ、家庭教師では……そうだわ!」

 ぽん!と手を合わせて

「レディ・ギボン、ひとつお願いがあります」

 ヴァイオレット先生が、きらりと目を光らせて、『お願い』を返した。


 先生の『お願い』とは

「わたしと同じ学校で、教えていた元同僚を、アナベラの次の家庭教師に、推薦すいせんさせてください」

 という事。

「彼女はまだ若いですけど、とても優秀で、教育熱心な教師です。それに」

 アナベラの目を、見下ろして

「亡くなったお父様が、植物学者で――彼女も、植物学が専門なのよ?」

 だからきっと、気が合うと思うわ。


 にっこりと、レディ・ヴァイオレットは、確信の笑みを浮かべた。


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