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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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ちょうどいい就職先

 その日の午後、せめてもの思い出にと――ヴァイオレット先生を囲んで、アナベラとシャーロット、ミセス・ジョーンズにベティ、乳母と侍女――特別に使用人も参加して、女子だけの、お茶会を開いた。

「ヴァイオレット先生……わたし、先生のこと忘れません!」

「わたしもよ、アナベラ!」

 参加者が皆、こっそり涙をぬぐいながら、しんみりと終わったお茶会の後で、侍女と一緒に温室から出た白ばら姫に

「シャーロット、ちょっといいか?」

 珍しく思い詰めた表情の、ジェラルド・ウルフ大尉が、声をかけた。


 人気ひとけの無い菜園の前まで、移動して

「どうなさったの、ジェル兄様……?」

 シャーロットが、首をかしげる。

「さっきイーサンに、聞いたんだが――ヴァイオレット先生が、アナベラの家庭教師を、めさせられたって――ホントか?」

「ええ……残念だけど、本当よ」

 ため息をいて

「明日、次のお仕事を探しに、ストランドに戻られるの」

 しょんぼりと、公爵令嬢は答えた。


「次の仕事は、まだ決まってないんだな?」

「ええ」

「だったら……ちょうどいい、就職先がある」

「えっ、就職先……⁉」

 驚いて顔を上げた従姉妹に、にやりと海軍大尉は、耳打ちをした。



 翌日の朝食後

「先生、ストランド行きの馬車は、昼過ぎに出るんですよね。これから少し、お時間をいただけません?」

 シャーロットが、にこりと声をかけた。

「いいけど……どこに行くの?」

「ちょっと、ヘア村まで」

 馬車にユナと三人で乗り込み、しばし揺られて、辿たどり着いたのは

「ここは……?」

 緑色の三角屋根に白い壁が可愛い、ヘア村の学校だった。


 古いながら、きちんと手入れがされている校舎の、正面の扉を開けると、手前にカバンやコート等を掛けるスペース。

 奥の教室に、30人程の生徒が座り、算数の授業を受けていた。

 ベテランの女性教師が出した質問に、「はい!」「はいっ!」と元気よく、手を上げる生徒達。

 首をひねっている生徒には、コルクボードに貼った、カラフルな図形を使って、問題のヒントが与えられ――「分かった!」と、嬉しそうな声が上がる。

 低学年の生徒達に、小テストをかせている間に、今度は年上の生徒に、数式を分かりやすく説明する。

 真剣な顔でうなずき、ペンを走らせる生徒達。

 その様子を見ていたヴァイオレットの、眼鏡の奥の瞳が、生き生きと輝き出した。


「すみません、お待たせして」

 授業の後の休憩時間に、女性教師――エリザベス・ターナーが、三人を奥の、教師用控室に案内した。

「こちらこそ、授業の邪魔をしてしまって、すみません」

 申し訳なさそうに、公爵令嬢が頭を下げる。

 途中で生徒達が、後にいる見学者に気が付いて、『シャーロット様だ!』『すごいキレイ!』『選挙の時の絵に、そっくり!』と、大騒ぎになってしまったのだ。


「いいえ、子供達も大喜びでしたし……。でも、あんまりにぎやかで、びっくりなさったでしょう?」

 笑顔で問いかけた、ターナー先生に

「いえ! 活気があって、とても楽しい授業でした!」

 ヴァイオレットが、キラキラした目で答える。

「あなたは、首都の学校で、教えてらしたんですってね?」

「はい。女子専用の寄宿学校で、歴史や外国語、数学等を担当していました。その前は、家庭教師を」

「そう。だったら……」

 にこりと微笑んだ、ターナー先生が、

「ここでの授業を、手伝ってもらえるかしら?」

 元家庭教師に、問いかけた。


「手伝うって……この学校の『教師』として――という事ですか⁉」

 思いがけない提案に、驚きの声を上げた、ヴァイオレットに

「さっきの生徒の中に数人、上の学校を目指している生徒達がいるの。合格したら、奨学金しょうがくきんを受けて、進学出来るのよ」

「奨学金?」

「えぇ。前領主様もウィルフレッド様も、学ぶ意志のある子供達に、手を貸してくださって。放課後に、その子達の補習授業も、しているのだけど――わたし一人では、とても手が回まわらなくて。誰か手伝ってくれる教師を、探していたの」

 ベテランの教師が、今まで何人も――何百人もの生徒をみちびいて来た、右手を差し出す。


「わんぱくな男子生徒も、たくさんいるし。ご令嬢達の寄宿学校より、お給料も低く」「お願いします!」

 かぶせ気味に答えた、ヴァイオレット先生が

「ぜひ、やらせてください……!」

 差し出された右手を、ぎゅっと両手で、力強く握った。


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