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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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温室の薔薇園

「まぁっ……!」

 シャーロットが初めて足を踏み入れた、兎穴の温室。

 そこには見渡す限り、たくさんの白薔薇が、美しさ清らかさを競い合うように、咲きほこっていた。



『シャーロット嬢に、お見せしたいものが……これから温室まで、よろしいでしょうか?』

 ウィルフレッドの誘いの言葉を、

『えっ……いえ、結構です! わたくしは、その――荷解にほどきで、忙しいので!』

 警戒しながら、ばっさり断ると

『そうですか……』

 しょんぼりと、肩を落とす姿に、なぜかチクリと、心が痛む。


『お嬢様――少しだけなら、よろしいのでは?』

 その姿に同情したのか、ユナが小声で誘いかけ、

『なんなら俺が、温室の外から、見張っててやるよ』

 ジェラルドまで、任せろと笑う。


『……では、少しだけ』

 しぶしぶとうなずけば、ほっとしたように、領主の左腕が、差し出された。

 作法通りに、右手をえる。


 家族のため、領民のためだけに、結ばれた婚約者。

 でも相手に、どんな思惑おもわくがあるにしても、こんな明るい時間に、何か仕掛けてくるとは思えない。

 それに、


『ありがとう……!』

 若さに似合わぬ切れ者と、ウワサに聞いていたこの人が――わたくしが、誘いに応じただけで――こんな、子供のような笑顔を、見せるなんて。

 不思議な気持ちで、足を踏み入れた、ガラス張りの室内。



「こんなに、たくさんのバラが……! 狼城ではもう、なごりでしたのに」

「本当に……」

 背後で侍女のユナも、息を飲んで、見渡している。


「まだ涼しい北部で、栽培させた苗を、植え替えましたので」

「えっ――わざわざ、ですか?」

「はい」

 少し、ためらった後に


「あなたが好まれるから、狼城の庭には、薔薇が多いと聞きました。こちらにも、薔薇園を作ったら、故郷を離れたなぐさめに、なるのではと……」

「え、」


 幾重にも連なる、白薔薇のアーチを、くるりと見やり

「これを、わたくしの為に……?」

 目を丸くして、見上げると、

「はい。気に入って頂けると、良いのですが……」

 不安そうに、らぐ瞳と出会う。


 思わず、口から出た言葉は

「気に入りました」

「本当に……?」

「本当、です」

 自分でも戸惑いながら、うなずいてみせれば、ウィルフレッドはくしゃりと、安堵あんどの笑みを見せた。



「良かった……!」

 灰色がかった青い瞳を細めて、にこにこと、笑っている。

 仇敵きゅうてきなのに、4歳も年上の領主様なのに、なんだか……

 なんだか

「――可愛い」

 ぽつりと落ちた言葉に、シャーロット自身が、一番びっくりして。


「えっ――今何か、おっしゃいましたか?」

 耳を寄せるように、整った顔が近づいて来たとき

「――何でもございませんっ!!」

 淑女の礼儀に、反するような大声を、思わず出してしまった事は

『ばあやには絶対、ナイショにしよう』



 気持ちを落ち着かせようと、頬に触れる髪を、耳に掛けたとき

 指先がかすめた、耳の先がなぜか、雪遊びの後のように、熱くなっていた事も。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 思わず可愛いと漏らすシャーロット。 そんな彼女が一番可愛いです♪
[良い点] なんだ、この可愛い二人は…これは我々みんなのシャーロット様をあげても…いえ、やはりもう少し見極めます(´˙꒳˙ `)笑
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