驚きの再々就職先
「ヴァイオレット先生……! お久しぶりです!」
「先生! また眼鏡が⁉」
「あらまあ――相変わらず、おっちょこちょいだこと!」
「わたしの手に掴まって、先生!」
兎穴の車寄せに、わっと駆け付けた、元教え子と侍女と乳母と、来る途中ですっかり仲良くなった、元悪役令嬢に、馬車から助け降ろされた、元家庭教師は
「久しぶり、元気そうねシャーロット! そうなのよ、ユナ! 面目ないわ、乳母様! ありがとう、アナベラ!」
四人まとめて、嬉しそうに抱きしめた。
何やら憔悴した様子のイーサンと、いつもと変わらないジェラルドにお礼を言ってから、女子一行に手を引かれて、近場のモーニングルームに辿り着く。
「ヘア村のイン(宿屋)に、トランクを預けて来たの。その中に、予備の眼鏡が入ってるから」
「わかりました。ミスター・アンダーソン?」
「はい、すぐに取りに向かわせます」
「ありがとう」
有能な執事に、にこりと礼を言った後
「たくさん、お話したい事ありますし……今夜はこちらに、泊まってくださいな?」
と甘えるように、シャーロットはねだった。
「ありがとう。でも眼鏡が来たら、インに帰るわ。明日、早朝の乗り合い馬車で、立つ予定なのよ」
「そんなに急いで、どちらに行かれるんですか?」
不思議そうな、元教え子の問いかけに
「実は……面接を受けに行くの、再々就職の」
少し気まずそうに、先生は答えた。
「えっ、再々就職って――今勤めてらっしゃる、ストランドの学校は?」
「それが、ノーグッドなことに……経営難で閉校が、決まってしまったの」
手探りで茶器を手にし、こくりとお茶を飲んでから
「それで仕方なく、次の就職口を探してたら、この近くの『ギボン子爵家』で、家庭教師を募集していて」
「「「「ギボン子爵家⁉」」」」
思わず復唱した、四人揃っての大声に
「ええ……皆、知ってるの?」
不思議そうに、先生が尋ねる。
「知ってるも何も……」
「偶然ですね……」
「実はこちらの、アナベラさんが……」
「……あの、わたし――アナベラ・ギボンです」
もじもじと、答えた少女に
「なんですってーっ⁉」
今度は、ヴァイオレット・シープが、教師にあるまじき、大声を上げた。




