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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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2度目のプロポーズ

 翌日久しぶりに、兎穴領主とその婚約者は二人きり、ガゼボで昼食を共にしていた。

「そういえば、イーサン義兄上あにうえは……?」

「アナベラさんとベティを連れて、ピクニックに行きました。お弁当を持って、ジェル兄様もご一緒に」


 にこりと、楽しそうに笑った後に、表情を改めて

「お義母様のご容態、早く良くなられるといいですね?」

「うん。母も残念がってたよ。ロッティの絵を見て、『なんて綺麗で愛らしいの!』って……会うのを本当に、楽しみにしてたから」

「わたくしの『絵』?」

 不思議そうに、首を傾げた婚約者に

「うん。ほら――ウェディングドレス選挙の、『バッスルドレス』の見本絵。あれを持って行って、父と母に見せたんだ」

 得意そうに、領主は告げた。


「あんな大きな絵を……⁉」

「丸めて、図面用の固い筒に、入れて行ったから大丈夫。父に『ぜひ、譲って欲しい』ってせがまれて――『プリンセスライン』の方は、自室に飾ってあるから――しかたなく、プレゼントしたけど。『わたしの宝物だから、大切にしてください』って、念を押して」

「宝物……」

 恥ずかしそうに頬を染めた、婚約者の、左手をそっと握って

「本当の宝物は、ここにあるけどね?」

 愛おしそうに、薬指にはめている、昨日渡した『お土産』――繊細な薔薇のかし彫りが入った、銀の指輪――を、優しく親指でさする。


「そういえば、ウェディングドレスの方は、進んでる?」

「はい。もう仮縫いは終わりましたので、後は刺繍やレース等、飾りを付けて、仕上げて頂くだけです」

 シャーロットの返事に

「そうか……だったら、2週間後の水曜日は、どうかな?」

「どうって?」

「結婚式を、げるのは――どうかなって」

 少し緊張した声で、ウィルフレッドが提案した。


「2週間……」

「急過ぎると、思うかもしれないけど――前回延期する前に、事前の準備はほとんど済んでいるし、父と母も心待ちにしているし。それに昔から、水曜日の結婚式は、『全てに恵まれる』って」

「わかりました」

 早口で、あれこれ理由を述べている領主に、公爵令嬢は、きっぱりとうなずいた。


「それに――えっ、今?」

「『わかりました。2週間後に、結婚式を致しましょう』と、申し上げました」

 ほんわりと頬を染めて、微笑んでいるシャーロットを、呆然ぼうぜんと見つめて

「……ごめん、言い方を間違えた」



 改めて、婚約者の前に片膝かたひざを付き、差し伸べた右手で、白くほっそりとした左手を取り、

「レディ・シャーロット――わたし、ウィルフレッド・テレンス・ヘアと、2週間後の水曜日に、結婚して頂けますか?」

 ヴァイオレット・サファイアの瞳に、真摯しんしに問いかける。

「はい、喜んで」

 にっこりと返された、答えを聞いて、嬉しそうに輝く、アッシュブルーの瞳。


 幸せな沈黙に満ちた温室に、後方の侍女からぱたぱたと、指先をそっと合わせた、拍手の音が、かすかに落ちた。



 その時

「こほんっ!」

 部屋中に響くような、咳払いの後、きっかり10秒の間を置いてから

「失礼致します……シャーロット様宛に、電報が」

 と、銀盆をささげた執事が、温室の入口から入って来た。


「電報? わたくしに?」

 まるで1週間前の再現のように、銀盆を差し出す執事に、首をかしげるシャーロット。

「誰から、かしら?」

「狼城からじゃないか? ――ほら、『イーサン、すぐ帰れ』的な?」

10秒の間にさり気なく、立ち上がっていた領主が、口を挟む。

「まぁ、ウィルったら……」

 くすくすと笑いながら、電報を開くと

「あらっ、先生からだわ!」

 差出人の名前を見て、公爵令嬢は、目を見張った。


「『先生』って……結婚式に招待したって言ってた、元家庭教師の?」

「覚えてて、くださったんですね! えぇ、そのヴァイオレット・シープ先生からです……まぁ!」

 電文を読んでいたシャーロットが、驚きの声を上げる。


「数日前に、『バッスル』の時お世話になったお礼と、アナベラさん用におすすめの、『植物図鑑』を教えてくださいと、お手紙を書いたんです。そうしたら……」

「どうしたの?」

「『ちょうど、ヘア・ホール方面に行く用事があるので、ついでに届けます』と……今日の午後に、こちらにいらっしゃるそうです!」


「今日、これから……?」

「はいっ! 結婚式でお会いするのを、楽しみにしてましたのに――こんなに早く、お会いできるなんて!」

 嬉しそうに、電報を繰り返し読んでいる、『宝物』の婚約者。


千客万来せんきゃくばんらい

 義兄に加えて、元家庭教師まで……。

 しばらくはまた、二人きりの甘い時間が削られることに、心の中で深く、ため息をきながら――

「それは良かったね、ロッティ?」

 兎穴の領主は、にっこりと優しく、口角を上げてみせた。


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