侍女の日記16
◇◇◇
ご無沙汰してます、ユナです!
いやはや、びっくりしました。
ウィルフレッド様のご両親の代わりに、まさかシャーロット様の、お兄様がいらっしゃるとは……!
しかもイーサン・ウルフ様は、ラスボス……最後にして最強の、『攻略対象者』です!
イーサン・ウルフのモデル(推定)は――ステージ上での迫力あるパフォーマンスと、普段のリア恋枠(さり気ないイケメンキャラ)の、ギャップがたまらないと噂の――6番目に年長のメンバー。
メンバー間でも特に仲が良く、末っ子が一番、素直に甘えられるお兄さんポジ。
『千バラ』でも、妹を溺愛しているお兄様でしたが、実は血が繋がっていないという設定が(シャーロット様が養女)。
アナベラによる根も葉もない中傷から、誤解したウィルフレッド様に婚約を解消され、更に規律の厳しい(一度入ると終生出られない)修道院に、送られることになったシャーロット様。
屋根裏部屋に監禁された、大ピンチのシャーロット様を、ジェラルド様にサポートされながら、嵐の夜に外壁を登って、助けに来るシーンや、
ずぶ濡れになりながら『小さい時から、ずっとお前だけを見ていた……いい加減気付けよ?』おでこコツン――の胸キュンシーンに……
『イーシャロ、尊い……!(涙)』
『イーサンとなら、絶対幸せになれるよ! おめでとう!』
と祝福の嵐が巻き起こった、さすがの末っ子コンビ。
ちなみに、ジェラルドルートのクライマックスも、同じ設定で、料理長特製のバゲットサンドを背中にしょって、屋根裏部屋の扉を蹴破ったり、シャーロット様をお姫様抱っこして、屋根の上を駆け抜けたり……こちらはアニメのヒーローぽくて、両ルートのギャップが、面白かったな~!
こちらの世界では、『本当のご兄妹』に間違いないので(おばあちゃんはもちろん、狼城古参使用人にも確認済)、安心して仲睦まじいご様子を、ほっこり堪能出来るけど。
「いい加減シャーロットから、離れてください!」
「長年生き別れていた、愛する妹とやっと会えたんだぞ! 少しくらいいいだろ⁉」
「お兄様……お別れしてから、まだ半月ちょっとですわ」
「その半月が、永遠に思えるくらい、辛かったんだよー!」
シャーロット様を離さないイーサン様と、引きはがそうとするウィルフレッド様が、わちゃわちゃ騒いでいる所に
「あの……ウィル兄様?」
恐る恐る声をかけたのは、元悪役令嬢のアナベラでした。
「あっ、アナベラ……⁉ 久しぶりだね? 少し見ない間に、一段と可愛くなって――病気したって聞いたけど、体調はもう大丈夫?」
しゃきーん!と、『優しいお兄様』に変身した、ウィルフレッド様が、微笑んで尋ねると
「はいっ、すっかり元気です! おかえりなさい、ウィル兄様」
小さな花束を差し出して
「それから……ご婚約、おめでとうございます」
と、恥ずかしそうに、小さな声で告げてから、くるりとご兄妹に向き直る。
「あの……シャーロット――お姉様も、おめでとうございます」
エプロンを左手で、ぎゅっと、握りしめながら
「この前……『認めない』なんて言って、ごめんなさい!」
お嬢様にも、白い野薔薇や紫のアスターで作った、可愛い花束を、右手で差し出した。
「まぁ……ありがとう、アナベラさん!」
急に力の抜けた兄の腕から、するりと抜け出して――花束と、アナベラの謝罪と勇気を、シャーロット様が受け取る。
「なんて可愛い花束……とっても嬉しいわ」
にっこり微笑むお嬢様と、恥ずかしそうに俯いて、でも口元は嬉しそうに、綻んでいる元悪役令嬢。
『悪役令嬢が――あのアナベラが、ついに「シャーロットお姉様」と呼んだ……!』
心の中で、目の幅の涙を流しながら、後ろで見守っていたベティと一緒に、ぱちぱち拍手を送っていると、
「負けた……」
イーサン様がいきなり、がくりとうな垂れた。
「お兄様……?」
「義兄上?」
「お前らの愛は、本物だったんだな……」
「「はい?」」
きょとんと見つめる、妹と未来の義弟の前で
「子供には、真実が見えるもんだ」
同じく、きょとんとしている、アナベラの前にしゃがみ、視線を合わせて、優しく尋ねる。
「お名前は?」
「アナベラ・ギボンです」
「アナベラ、いい子だ……ちょっと待て、『ギボン』?」
「はい」
「まさか……『オリヴィア・ギボン子爵令嬢』の?」
「妹、ですけど?」
不思議そうに、首を傾げた元悪役令嬢に
「何だってー-っ‼」
ラスボス、イーサン・ウルフは――アナベラが、ぴょんと飛び上がる位――特大の、叫び声を上げました。




