従者の説明
最後に馬車から、降りて来た従者、ミカエル・ドッゴことミックが、がっくり肩を落とした主の様子に、ため息をひとつ吐いてから
「ただ今戻りました」
と出迎えた一行に、頭を下げた。
「お帰りなさい。ミック」
「おかえり」
「お疲れ様」
家政婦と乳母と侍女が、口々に告げた後で、
「ご苦労でした、ミック。それで――大旦那様と奥様は?」
執事のミスター・アンダーソンが、一行が一番知りたかった質問を、問いかける。
「それが……」
「まさかまた、大旦那様の、ご容態が⁉」
「いえ、奥様です」
先代の伯爵夫人が、息子の顔を見て、ほっとした気の緩みと、ここ一年の心労が重なって、熱を出されたこと。
幸い、しっかりと休養を取れば、数日で回復するらしいこと。
先代の伯爵も、『今まで妻に心配かけた分、今度はわたしが看病しよう』と、今回は帰郷を見送ったこと。
――を、従者は順序立てて、説明した。
「なるほど。良く分かった」
と頷いた後
「それで? なぜイーサン・ウルフ様が、こちらに?」
今度は妹の、白く滑らかな頬を、両手で囲って
「少し痩せたんじゃないか? ウィルにいじめられてるなら、すぐ狼城に帰って」「いじめてませんっ‼」
甘々の笑顔を振り巻いている、次代の狼城領主と、かぶせ気味に言い返す、現兎穴領主を、長年の奉公で身に着けた無表情で、執事は見やった。
「実は、ポートリアからの帰り道、『通り道だから、ご挨拶して行こう』と……」
ふとウィルフレッドが思い立ち、ウルフ・ホールに立ち寄ることに。
現公爵とその夫人、未来の義父と義母に、結婚式が延期した理由や、ウィーズル事件の顛末と、心配をかけたお詫びを告げ、
「シャーロットは、わたしが必ず幸せにします!」
と力強く、『お嬢さんを、わたしにください』的な宣言をした所で
「その覚悟、本物かどうか、見せてもらおう……!」
と、妹を溺愛している事で有名な、未来の義兄が割って入り、急遽同行が決まった……
「という訳です」
疲れた顔で、それでもよどみなく、状況説明を終えた従者に、
「ご苦労でした、ミック。後は任せて、よく休みなさい」
労いを込めて、ぽんぽんと肩を叩いた執事は、くるりと使用人グループに向き直り
「客用寝室はそのまま、備品を変えて、使って頂きましょう。ミセス・ジョーンズ?」
「はい! すぐにメニューの変更を、相談して参ります」
「肉料理を多めに、お願いします。食後に、ウィスキーやブランデーの用意も。それから、ジェイク様のお荷物を2階に――」
次々と、指示を出し始めた。
「はいっ! 手の空いている従僕さんに、声をかけて来ます」
エプロンを翻して、玄関ホールに向かった侍女が、すれ違い様、にこりと従者に笑いかける。
『おかえり』
声を出さずに告げられた、ユナの言葉を受けて
『ただいま』
心底ほっとしたように、ミックも笑った。




