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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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従者の説明

 最後に馬車から、降りて来た従者、ミカエル・ドッゴことミックが、がっくり肩を落としたあるじの様子に、ため息をひとついてから

「ただ今戻りました」

 と出迎えた一行に、頭を下げた。


「お帰りなさい。ミック」

「おかえり」

「お疲れ様」

 家政婦と乳母と侍女が、口々に告げた後で、

「ご苦労でした、ミック。それで――大旦那様と奥様は?」

 執事のミスター・アンダーソンが、一行が一番知りたかった質問を、問いかける。

「それが……」

「まさかまた、大旦那様の、ご容態ようたいが⁉」

「いえ、奥様です」


 先代の伯爵夫人が、息子の顔を見て、ほっとした気のゆるみと、ここ一年の心労が重なって、熱を出されたこと。

 幸い、しっかりと休養を取れば、数日で回復するらしいこと。

 先代の伯爵も、『今まで妻に心配かけた分、今度はわたしが看病しよう』と、今回は帰郷を見送ったこと。

 ――を、従者は順序立てて、説明した。


「なるほど。良く分かった」

 とうなずいた後

「それで? なぜイーサン・ウルフ様が、こちらに?」

 今度は妹の、白くなめらかな頬を、両手で囲って

「少し痩せたんじゃないか? ウィルにいじめられてるなら、すぐ狼城に帰って」「いじめてませんっ‼」

 甘々の笑顔を振り巻いている、次代の狼城領主と、かぶせ気味に言い返す、現兎穴領主を、長年の奉公で身に着けた無表情で、執事は見やった。


「実は、ポートリアからの帰り道、『通り道だから、ご挨拶して行こう』と……」

 ふとウィルフレッドが思い立ち、ウルフ・ホールに立ち寄ることに。

 現公爵とその夫人、未来の義父と義母に、結婚式が延期した理由や、ウィーズル事件の顛末てんまつと、心配をかけたおびを告げ、

「シャーロットは、わたしが必ず幸せにします!」

 と力強く、『お嬢さんを、わたしにください』的な宣言をした所で

「その覚悟、本物かどうか、見せてもらおう……!」

 と、妹を溺愛している事で有名な、未来の義兄が割って入り、急遽(きゅうきょ)同行が決まった……


「という訳です」

 疲れた顔で、それでもよどみなく、状況説明を終えた従者に、

「ご苦労でした、ミック。後は任せて、よく休みなさい」

 ねぎらいを込めて、ぽんぽんと肩を叩いた執事は、くるりと使用人グループに向き直り

「客用寝室はそのまま、備品を変えて、使って頂きましょう。ミセス・ジョーンズ?」

「はい! すぐにメニューの変更を、相談して参ります」

「肉料理を多めに、お願いします。食後に、ウィスキーやブランデーの用意も。それから、ジェイク様のお荷物を2階に――」

 次々と、指示を出し始めた。


「はいっ! 手の空いている従僕さんに、声をかけて来ます」

 エプロンをひるがえして、玄関ホールに向かった侍女が、すれ違い様、にこりと従者に笑いかける。

『おかえり』

 声を出さずに告げられた、ユナの言葉を受けて

『ただいま』

 心底ほっとしたように、ミックも笑った。


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