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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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4章プロローグ

 サウザンド王国北部に位置する、ヘア伯爵家の屋敷、ヘア・ホール(ヘア邸)。

 通称『兎穴』は朝から、1週間ぶりの領主の帰還に、き立っていた。


「シャーロット様、客用寝室の準備は、整いました!」

晩餐ばんさんのメニューも、確認済です!」

「食器やカトラリー、ワインも、準備完了しました」

 次々と入る、ハウスメイドや家政婦、執事からの報告を受けて、

「皆ありがとう。ご苦労様でした」

 にっこりと、領主の婚約者、ウルフ公爵家令嬢シャーロットが、ねぎらった。


「まったくウィルフレッド様も、もう少し早く、ご連絡してくだされば……」

 ため息交じりの、乳母の声に

「仕方ないわよ。お帰りになられるかどうかは、お義父様の体調次第、だったんですもの」

 一昨日届いた、電報の文面――『このまま父の体調が良ければ、両親と一緒に戻る』――に思いをせたシャーロットは、文面の最後……『1週間分の愛を込めて ウィルより』まで、うっかり思い出して、ほんわりと頬を染めた。


 そんな愛らしいあるじを、微笑ましく見つめながら

「そろそろ、ご到着されるお時間ですね。お嬢様――モーニングルームで、お待ちになられたら、いかがでしょう?」

 にっこりと、侍女のユナが提案する。

「モーニングルームは、玄関ホールのすぐ裏ですから」

 誰よりも早く、ウィルフレッド様を、お迎え出来ますよ?

「それは、いい考えだね、ユナ!」

「ええ、本当に! 参りましょう、シャーロット様」

 乳母と家政婦にも背中を押されて――気が付けば、午後の明るい光が差し込む部屋で、茶器を手に座っていた。


「アナベラさんは――お庭かしら?」

 そわそわと、浮き立つような気持ちを押さえて、公爵令嬢がたずねる。

「はい。ベティと庭師のミスター・エバンズと、ご一緒です。『ウィル兄様に、お花をあげたい』と仰って」

 家政婦の返事に、思わずにっこりした後、


「そういえば……ヒューバート様は、どちらに?」

 ふと婚約者の弟君の姿を、しばらく見ていない事に気が付く。

「昨日、大学に戻られましたよ」

「まぁ! わたくしったら、ご挨拶もせずに……」

 困惑して、左手を頬に当てたシャーロットに

「ヒューバート様も、お急ぎでしたから。何でも、今夜開催される『詩の朗読会』に、ご自作を披露ひろうしたいからと」

 なだめるように、ミセス・ジョーンズが答える。


「あらっ……詩を書かれるなんて、ステキね」

「ご学友の影響で、最近始められたそうです。何でも『すごい自信作が、降りて来た!』らしく、『心臓』が何とか……」

「ごふっ……!」

「ユナ? 大丈夫⁉」

 家政婦の言葉を聞いて、いきなりき込んだ侍女に、心配そうに声をかければ

「大丈夫です! ちょっとホコリがのどに――けほん」

 咳払せきばらいの後、にっこり返された。


 ほっとした所に

「シャーロット様! ウィルフレッド様が、到着されました!」

 と連絡を受けて、取り急ぎ足早あしばやに、玄関ホールに向かう。

 大きく開かれた扉の向こうに、ヘア伯爵家の紋章が付いた、馬車が見える。

 どくんと、跳ね上がる気持ちのまま、駆け寄り

「おかえりなさいませ……!」

 弾む声をかけると、開いた馬車の扉から、飛び下りた男性が、

「シャーロット……!」

 全開の笑顔で両手を広げ、その腕の中に、ぎゅっと抱きしめられた。


 きちんと撫でつけても、いつの間にか、つんつんと立ち上がる、癖のある銀髪。

『鋭い』と、周囲に噂される黒い瞳は、目が合えばいつでも、にっこり――柔らかく細めてくれる。

『大好きだよ』と、こんな風に、抱きしめてくれる。

 幼い時から、ずっと……

「イーサンお兄様……!?」

「会いたかった――シャーロット!」

 離れていた時間を埋めるように、固く抱き合う――まるで、恋人同士のような兄妹を、続いて馬車から降りたウィルフレッドが、力なく眺める。


「それは、わたしの役目だろ……」

 領主のぼやき声を、聞きつけて

「あらあら」

「おやおや」

「ファイトです」

 家政婦と乳母と侍女が、三者三様につぶやいた。


4章、スタートしました!

1~3章に、ブックマークやいいね、評価や感想をくださった方、訪問してくださった方、本当にありがとうございました。

引き続き、楽しんで頂けると嬉しいです♪



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