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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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お詫びのプレゼント

 翌日朝食を取ってから、鏡台の前に座ったアナベラに、ベティがわくわくと提案した。

「アナベラ様、今日は新しい髪型に、チャレンジなさいませんか?」

「新しい髪型……?」


 鏡に映るのは、相変わらずくるくるとふくらんだ、真っ黒な髪。

 病気前は無理やり、三つ編みにしてたけど、短くされてからは、ピンで留める位しか、まとめようがない。

 こんなの、どんな髪型にしたって同じなのに……。

 でも

「うん。お願い」

 気が付いたら、こくりとうなずいていた。


 霧吹きで少し湿しめらせ、ハーフアップに取った毛束を、黒い糸で結ぶ。

「この結び目を分けた上から、毛束を回すように通して……くるりんぱ!」

「『くるりんぱ』?」

「はい、出来ました……いかがでしょう?」

 手鏡で映してくれた結び目は、可愛くねじれて、すっきりと、ボリュームも押さえられている。


「可愛い……ありがとう、ベティ!」

 ぱあっと、鏡越しに、笑顔を向けると

「お気に召して頂けて、良かったです! このアレンジ、ユナさんに教えてもらったんですよ」

 ベティも嬉しそうに、はずんだ声を返す。

「そして、ここに……はい、完成です!」

 結び目にふんわりと、真ん中にバラのつぼみの造花が付いた、白いリボンを留めた。


「こちらのリボンは、シャーロット様からのプレゼント――それからこちらは、ミセス・ジョーンズからです」

「エプロン……?」

 ベティが広げたのは、肩とすそにフリルの付いた、真っ白なエプロン。

「はい、『こちらを着て、お外や兎小屋で、たくさん遊んでください』って」

 いつものピンク色のドレス(今日は淡い色なので、ましな方)の上から、エプロンを付けてもらうと、袖と裾以外が、白くおおわれる。

「あっ――ピンク色が、目立たない!」

 鏡の前で目を見張ったとき、コンコンと、ノックの音が。

 駆け寄ったベティが、開けた扉から

「おはようございます、アナベラさん!」

 プレゼントの主が、顔をのぞかせた。


「あの……リボンを、ありがとうございます。それからこの前、助けてくれ――くださった事も」

 勇気を出して、お礼を言ったり、

「何でもないことよ……リボンもエプロンも、とってもお似合い! 可愛いわ!」

 にっこりと、めてもらったり――の後

「もうひとつ、プレゼントがあるのよ」

 と、裏庭に連れ出される。

 兎小屋とは反対側にある、短い芝におおわれた、広場の奥。

 大きなかしの木の前で、ネイビーブルーの軍服を着た、背の高い軍人が待っていた。


「こちらは、わたくしの従兄弟、ジェラルド・ウルフ大尉」

 公爵令嬢の後ろから、恐る恐るのぞくと、片手を上げたウルフ大尉が、その手をぎこちなく、左右に振っている。

「ジェル兄様は、一昨日、アナベラさんを驚かせてしまった、おびがしたいそうよ」

「すまなかった」と、固い表情のまま頭を下げてから、大きな身体が横に移動すると

「ぶらんこ……!」

 樫の木に下がった、可愛いブランコが、現れた。


 真っ白に塗られた、なめらかな木の座面ざめん

 それを支えるロープには、とげの無い、小さな白い蔓薔薇つるばらが、愛らしくからませてある。

「可愛い……」

「座ってみて?」

 シャーロットの優しい声にうながされて、そっと白い板に腰を下ろす。

 淡いローズピンクのスカートとエプロンを、ふわりと広げて、小さな薔薇をよけて、ロープを握った。

「なんて愛らしい――!」

「まるで、妖精みたいですね!」

「本当にステキです、アナベラ様!」

 口々に賛辞さんじを送る、公爵令嬢と侍女とメイド。


『妖精なんて、初めて言われた……』

 恥ずかしさと嬉しさに、もじもじしていると、さっと『ジェル兄様』が、後ろに回る。

「行くぞ…?」

「えっ……」

 ぐんっと、背中を押されて、身体が宙に、放り出された。


 ふわりと、鳥のように飛ぶ。

 真っ白なエプロンのひもを、羽根のようになびかせて、芝の広場を、はるかに越えて。

 一瞬、空の中で止まった後、また引き戻される。

 楽しい。楽しい!

「きゃーーっ‼」

 何度か行き来している間に、気が付けば、レディにあるまじき、はしゃぎ声を上げていた。


 慌ててロープをつかんだ軍人が、急いでブランコの、揺れを留めた。

「大丈夫か⁉ すまん――いきおい、付け過ぎた!」

 前に回り込み、アナベラの小さな両手ごと、ロープを押さえながら、あせって顔をのぞき込む。

「……楽しかった」

「ん――?」

「とっても楽しかったです! ありがとう、『ジェル兄様』……!」

 頬を真っ赤に染めたアナベラに、きらきら輝く灰色の瞳で、見上げられて

「……どういたしまして」

 目を細めてにっこりと、嬉しそうに笑った顔は――ハチミツをお腹いっぱい食べた、クマさんに、どこか似ていた。



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