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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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ルバーブの葉っぱ

「えっ――『ルバーブの葉っぱ』って、毒があるの⁉」

 事件の翌日、菜園の前でアナベラが、驚きの声を上げた。


「そうなんですよ。茎はジャムやパイにして、美味しく頂けるんですけど」

 にこやかに、ミセス・ジョーンズが答える。

「ベティは、それを知ってたのね?」

「はい。小さい頃、うっかり口にした友達が、具合悪くなって。母さんから、『食べちゃいけない草』を、教えてもらったんです。ルバーブの他に――トマトやジャガイモの葉にも、毒があるんですよ」

「そう……あんなに小さいナツが、もし食べたら、大変なことになっていたのね」

 しょんぼりと、肩を落とすアナベラに

「わたしもあせってしまって――急いで葉っぱを払い落とそうと、アナベラ様の手までたたくなんて――本当に申し訳ございませんでしたっ!」

 ベティがあわてて、頭を下げる。


「もういいってば。あのね――」

 少し、もじもじしながら

「草やお花のこと、もっと教えてくれる?」

 愛らしく、首をかしげたアナベラに

「もちろんです!」

 全開の笑顔で、誰よりも優しい、アナベラだけのメイドは、うなずいた。


 にこやかに、小さなあるじとメイドのやり取りを、見守っていたシャーロットが

「そろそろ、お茶にしましょうか?」

 明るく声をかける。

「「はーいっ‼」」

 仲良くそろった返事に、目を細めながら

「シャーロット様、本日のお茶会は、少し趣向しゅこうがございますよ」

 家政婦が、楽しそうに告げた。



「趣向って、何かしら?」

 わくわくしながら、温室に入った一行を、待っていたのは

「……ようこそ」

 昨日、騒ぎを起こした張本人――ヒューバートだった。


 神妙しんみょうな顔で

「昨日は、お騒がせをして、申し訳ありませんでした」

 と、頭を下げてから

「えっと、アナベラ……? 昨日はごめんね? 昔一度、会ったことがあるんだけど――おぼえてるかな? ヒュー兄様だよ?」

 シャーロットの後ろに、さっと隠れたアナベラに、恐る恐る、声をかける。


「……昔って?」

「えーと、確か……10年前?」

「生まれたばっかりじゃない! 覚えてるわけないでしょ⁉」

 ぷんっと、頬をふくらませた従姉妹に

「そういえばまだ、おサルみたいな顔してたっけ」

 余計な一言を、付け足して

「誰が、おサルよ……!」

『悪役令嬢』の怒りに、油を注いだ。



「アナベラ様、お嬢様。今日のお茶会は、昨日のおびにと――ヒューバート様が、ご用意されたんですよ」

 お茶会の準備を手伝ったばあやが、見かねて口をはさむ。

「まぁ……ありがとうございます。ヒューバート様」

 微笑んだシャーロットを前に

「いっいえ――麗しのレディに、喜んでいただけるとは、望外ぼうがいの幸せ……」

 握った右手を左胸に当てて、感動に耐える、領主の弟君。


「こほん……皆さま、お席に。ヒューバート様、本日のケーキは『特製』なんで、ございますよね?」

 ミセス・ジョーンズにうながされて

「そうなんです!」

 大きな皿のおおいを取った、弟君が

「キャロットケーキです……!」

 じゃーん!と得意顔で、披露ひろうした。


「レディ・シャーロットが、お好きと聞いて――今日のケーキは特別に、間に蜂蜜がはさんであります。風味が変わって、美味しいですよ。それから、アナベラが好きな、ルバーブのジャムを使った『ジャムタルト』。お茶は、ローズヒップのハーブティー……酸味が強いのでこちらにも、蜂蜜を少しらすと、飲みやすくなります」

 ひとつひとつ丁寧に、説明してくれる。

 その口調と先程の、胸にこぶしを当てた仕草しぐさ……。


「ヒューバート様……?」

「はっ、はい!」

 まぶしそうに、こちらを見返す、その眼差まなざしも

「ヒューバート様は、お兄様――ウィルフレッド様に、そっくりですね?」

 白ばら姫は、にっこりと……それは嬉しそうに、微笑んだ。



「あーっ――あれは、きつい! ライバル、しかも兄弟に『そっくり』って……一番ダメージが大きい、攻撃だね」

「お嬢様に一切、悪気の無いのが……さらに、追い打ちかけてるよね?」

「……せめて今夜の晩餐ばんさんは、ヒューバート様のお好きなメニューに、いたしましょう」

 こそこそと会話する、乳母と侍女と家政婦と、「勉強になります!」と感心するメイドと――魂が抜けた目で、名前の通り今にも、ひゅーっと風に飛ばされそうな風情ふぜいで、椅子にもたれる従兄弟を、交互に見ながら


『よくわからないけど……ちょっとだけ、ヒューお兄様に、優しくしてあげよう』

 と思う、アナベラだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 悪役令嬢のアナベラちゃんが憎めない!! 可愛らしい!
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