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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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苛立ちとステキな寝室

「アナベラ様……」

 階段をのぼりながら小声で、メイドのベティがささやいた。

「その――あんな事言って、大丈夫なんですか?」

「あんな事って?」

 むっと口を引き結び、不機嫌そうに返す『レディ・アナベラ』。

「『婚約者って認めない』なんて……あんなお綺麗で、お優しそうなシャーロット様に」

 むむーっと、さらに口の端を押し下げて

「だったらあんたも、『お綺麗なシャーロット様』のメイドに、なりなさいよ――!」

「そんな……」

 困ったように、うつむくベティ。


 ……あーっ、イライラする!

 大体こんな、田舎者の新米メイドを、わたしの付き添いにするなんて――ひどい! やっぱりお母様が大切なのは、お姉様だけ……わたしの事なんか、どうでもいいんだわっ!

 ウィルフレッドお兄様に会えるから、ここに来ることだって賛成したのに……お兄様はお留守で、あんな女主人(づら)した婚約者だけなんて――最悪よ! 最悪!!

 ぎゅっと、濃いピンク色――大嫌いな色の、ドレスのスカートを握りしめたとき

「こちらのお部屋ですよ、アナベラ様」

 先に立って、案内してくれた家政婦が、微笑みながら、客用寝室の扉を開いた。


 すぐ後ろを歩く、小さな令嬢とメイドの会話は、すっかり聞こえていたはずなのに、そんなそぶりを見せず

「お疲れでしょうから、ゆっくりなさってくださいね。夕食は7時を、予定しておりますので」

 にこやかに一礼をして、去って行く。

 少しだけ気まずい思いで、きゅっと唇をめたアナベラは、部屋に足を踏み入れた。


「わぁっ……!」

 思わず、ため息がれた。

 壁紙や絨毯じゅうたん、カーテンにクッション、ベッド周りや寝具等が、淡いクリーム色の薔薇柄で、統一されている。

 可愛い鏡台きょうだいに、華奢きゃしゃな椅子、小さな白いテーブルに飾られた、オフホワイトの薔薇の花。

 女子なら誰でも『泊まってみたい』と、あこがれるような寝室。


「ステキなお部屋ですねぇ……」

 うっとりとながめる、ベティの声に、はっと我に返って

「ウィル兄様のご指示よ、きっと!」

 言い捨てたアナベラは

「疲れたから、横になるわ」

 ブーツを脱がせてもらい、クリーム色の掛け布団に、ばふんと倒れ込んだ。


「えっと、お腹はいてませんか? お茶でも頼みましょうか……?」

 ベッドサイドで、もじもじしているベティに

「いらない……! ヒマなんだったら、顔洗うお水でも、貰って来なさいよ!」

 苛立いらだった声を、投げつければ

「はいっ! すみません、行ってきます!」

 水差しをつかんで、あわてて飛び出して行く。


「あんな、使えないメイドと、1週間……最悪」

 ばふっと、良い香りのする枕に顔をうずめると、病気の時に切られた、短い黒髪がくるくると、頬にまとわりつく。

 うとましげに、払いのけながら――先程客間で見た、背中の中ほどまで垂れた、つややかな銀色の髪を思い出す。

「……黒髪も銀髪も、大っ嫌い!」

『悪役令嬢』は、吐き捨てるように、つぶやいた。


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