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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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悪役令嬢来襲

 翌日、早朝に旅立つウィルフレッドとミックを見送った後、シャーロットはばたばたと、前日から準備している客用寝室に、追加の指示を出し、家政婦と夕食のメニューを打合せ、温室の薔薇を花瓶にけ……昼過ぎにはすっかり、来客を迎える準備が整っていた。


「何か、忘れている事は無いかしら?」

 落ち着かない様子で、若いレディ用に、美しく整えられた客用寝室を、見渡すシャーロットに

「大丈夫です。完璧です。どんとこい!です」

 やはり落ち着かない――挙動不審気味きょどうふしんぎみのユナが、早口で返す。

 そこに、

「シャーロット様、ただ今アナベラ様が、ご到着されました!」

『悪役令嬢来襲(らいしゅう)』の、一報いっぽうが入った。


 侍女を従え足早に、客間に向かう。

 息を整え、執事のミスター・アンダーソンが開けた扉から、部屋に入り

「ようこそ、いらっしゃいました――レディ・ギボン」

 落ち着いた声で、歓迎の言葉を口にし、部屋を見渡して

「あらっ……?」

 シャーロットは、首を傾げた。


 部屋の中にいるのは、壁際に立ちおどおどと、ダークブラウンの頭を下げる、まだ年若いメイド。

 そして、ソファに座っているのは――ボンネットを深くかぶり、膝下丈のスカートから伸ばした足が、やっと床に着くような――小さな少女。

「あの……シャーロット・ウルフです。あなたは?」

 公爵令嬢の問いかけに

「……アナベラ・ギボン」

 不機嫌そうに、少女は答えた。


 小さな手がいささか乱暴に、ボンネットを脱ぐと、ふぁさっと、肩の上でカットされた、真っ黒な、くるくる巻き毛が広がる。

 視線を、手にしたボンネットに落としたまま、アナベラは、ぽつりと口を開いた。

「あなたが、ウィルフレッドお兄様の……?」

「あ、はい――婚約者です」

 あっけに取られていたシャーロットが、はっと我に返り、

「ごめんなさい、アナベラさん。もっと年上の方かと、勘違いしてしまって……こんなに可愛い方とは」「社交辞令は結構けっこうです!」


 柔らかく謝意しゃいを伝える、公爵令嬢の声に、かぶせ気味に叫んだ『悪役令嬢』は

「年上でも、可愛くも、ないけど」

 きっ!と、つり気味の灰色の瞳でにらみ、

「あなたが、ウィル兄様の婚約者だなんて――ぜーったい、認めませんから!」

 小さな両手を、ぎゅっと握りしめて、宣戦布告を叫んだ。


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