侍女の日記11
◇◇◇
ご無沙汰してます、ユナです!
いやはや、驚きました……ここで、まさかの『アナベラ』登場⁉
びっくりして、思わずスプーンを、取り落としちゃいましたよ。
えっ? 『アナベラって誰?』ですって?
以前、ちょっとお話した『悪役令嬢』ですよ……‼
アナベラ・ギボン子爵令嬢。
お嬢様と同い年19歳の、ウィルフレッド様の従姉妹で、ボリュームのある、くるくる縦ロールの黒髪と、つり上がった灰色の瞳の持ち主。
小さい頃から「ウィル兄様の、お嫁さんになる」が口癖で、当然『シャーロット様=敵』とみなし、ガンガン攻撃を仕掛けて来た。
ケネスルートでは、赤ワインをドレスにかけられて、それを隠そうとエプロンを付けたお嬢様が、メイドと勘違いした料理長と恋に落ち――なくて、本当に良かった!(ふーっ)
ウィルフレッド様ルートでも、お二人それぞれに、あることないこと――じゃなくて、ないことばかり吹き込んで、イベントを邪魔し、次々とフラグを叩き折り、ついには破談……狼城に帰る、傷心のシャーロット様を、高笑いで見送るという――まさに王道の、悪役令嬢っぷり。
前世では『悪役令嬢が転生者で、ヒロインまでも攻略したり、逆にヒロインが悪役』的な、小説やマンガが流行っていたけど――アナベラは、ぶれなかった。
好奇心から『バッドエンドルート』をプレイした時は、「きーっ! アナベラ、許さーん‼」と、何度叫んだことか(涙)
転生してからは、名前すら聞かなかったから、「この世界には存在しないのかーよかった、よかった♪」って、すっかり安心していたのに……!
明朝、ウィルフレッド様が取り急ぎ、ポートリアに旅立ち、その午後に、アナベラ嬢が兎穴に来訪、1週間滞在する予定。
何でも『悪い風邪(インフルエンザ?)にかかった後なので、静かな土地で静養させたい』とのこと。
まぁ病気の後なら、さすがのアナベラも、少しは大人しいだろうし――とりあえず、ミックと対策練って……と思っていたら
「ごめん――俺も、ウィルフレッド様のお供で、ポートリアに行くから」
めちゃめちゃ気まずそうに、伝えてきた。
「嘘でしょ……?」
「マジです」
「なんで⁉」
「なんでって……仕事だから」
たしかに、『従者の主な仕事は、ご主人のお世話。旅先にも同行しまっせ!』だけど……。
「わかった……」って、しょんぼり頷いたら
「困った事になったら、すぐに電話――じゃなくて、電報送って、なっ?」
心配そうに、顔を覗き込まれた。
うーっ、いかんいかん! ミックだって仕事なんだし――大丈夫! ユナは一人で出来る子!
ぺちっと頬を叩いて、自分を叱咤激励していると、
「あっ、お土産買ってくるから! ポートリアは港町だから、変わった食べ物とか、あるだろーし」
ミックが、元気づけるように、声を上げた。
「港町かぁ――魚介類とか?」
「だな……『干物』とか?」
「干物――⁉ 懐かしい~! めちゃめちゃ、楽しみにしてるね!」
無理くりじゃない、笑顔を見せたら、
転生者仲間の従者は、ほっとした顔で、「うん!」と頷いた。
気兼ねなく相談出来る、ミックがいないのは痛いけど。
おばあちゃんにミセス・ジョーンズ、エマにジェイン、それにジェラルド様……わたしにはまだ、お嬢様のためなら、すぐに手を貸してくれる――頼れる仲間が、たくさんいる。
どんとこい、悪役令嬢!
……いえ、なるべくお手柔らかに、お願いしまーす(小声)
無事にこの『アナベラ来襲イベント』を、クリア出来ることを祈りながら……
おやすみなさい。
(ユナの日記より)




