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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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3章プロローグ

 事の起こりは、昼食時に届いた、2通の電報だった。

 1通は、ポートリアのゴート卿から。

もう1通は、母方の親戚、ギボン子爵家から。

 宛名はどちらも、『ウィルフレッド・テレンス・ヘア伯爵殿』。


 執事のミスター・アンダーソンが差し出す銀盆から、ウィルフレッドはまず、ミドルネームを貰った『テリー伯父様』こと、テレンス・ゴート卿からの、電報を手にした。

「ウィル、フレッド様……伯父様からは何と?」

 婚約者のシャーロット・ウルフ公爵令嬢が、心配そうに声をかける。

 きゅっと結んで、文面を読んでいた、領主の唇が、ふっとほころ

「うん――父の記憶がすっかり、戻ったそうだ!」

 嬉しそうに、弾んだ声を上げた。


 1年前、思わぬ事件で頭にケガを負い、その前後の記憶を、ぽっかり失っていた、前領主。

 つい10日ほど前に起きた、『主人に変装して悪事し放題&侍女監禁&書斎立てこもり&拳銃発砲&家宝盗難未遂事件』の犯人が、その時の同一犯だと分かり、『テリー伯父様』が、詳細を伝えに戻っていたのだ。

「まぁ――本当によかったですわ! おめでとうございます!」

 シャーロットもぱちりと両手を合わせ、笑顔で言祝ことほぐ。

「すぐに、行って差し上げてください。お顔をご覧になれば、お父様もご安心なさるでしょうし」

「ありがとう、伯父上も『都合が良ければ、すぐ来るように』と、言ってこられたけど……」

 もう1通の電報を開いて、

「――どうやら、そうもいかないようだ」

 親指で眉間をさすりながら、ウィルフレッドは、困り顔で笑った。


「ギボン子爵夫人――母の妹にあたる、叔母上から、『下の娘を1週間ほど、預かって欲しい』と連絡が」

「『下の娘』……従姉妹さん、ですか?」

 首を傾げた婚約者に

「うん。『アナベラ』という名前で」と答えた途端

 カシャーンッ――!

「しっ、失礼しました!」

 茶器を手渡そうとしていた侍女が、ティースプーンを取り落とした。


「申し訳ございません、お嬢様!」

 珍しい失態に動揺したのか、つねになく慌てた様子で、代わりのスプーンを用意する侍女に

「大丈夫よ、ユナ」

 にこりと、微笑んでから

「ウィル、『レディ・アナベラ』は、わたくしにお任せください」

 公爵令嬢は婚約者に、胸を張って告げた。


「いや、でも……ロッティだって――ウェディングドレスの仮縫いや、色々準備で忙しいだろ?」

「大丈夫です。ウィルはどうぞ、お父様のところに。それに、お客様をおもてなしするのは、わたくしの役目ですわ。その――『ヘア伯爵家の女主人』、として……」

「ロッティ――!」

 ほんわりと頬を染めて、ためらいながら告げられた、『女主人』という言葉に、打ち抜かれた心臓ハートを、右手の拳で押さえて耐える、兎穴の領主。

「ん゛んっ……」

 後方で、流れ弾に当たった侍女も、咳払いで平静を装う。


 胸から外した右手を伸ばし、ほっそりと白い左手に、そっと指をからませて

「ありがとう。アナベラは大人しい子だから、あまり迷惑をかけないと思うけど――何か困ったことがあったら、すぐに連絡をして?」

「わかりました。あの――お父様とお母様に、よろしくお伝えください。『シャーロットもご一緒出来なくて、申し訳ございません』と」

「うん。わたしの『奥方』がそう言っていたって、ちゃんと伝えるから」


「おく……」

 また頬を染めた、未来の奥方に

「いい知らせを、待っていて?」

 アッシュブルーの瞳を細めて、ささやけば

「はい、お待ちしています」

 バイオレットサファイアの瞳が、祈るようにまたたいた。


3章、スタートしました!

1~2章に、ブックマークやいいね、評価や感想をくださった方、訪問してくださった方、本当にありがとうございました。

引き続き、楽しんで頂けると嬉しいです♪

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