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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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ロッティの正体

【金曜日】


「あの『秘策』は、『ここだけの秘密』って、言ったよね? なんでヘア村にまで、広まっちゃったのかな~?」

 夕食時、使用人食堂の入口で、笑顔のユナに問い詰められた、エマとジェインが

「ごめーん! 隣の部屋の子が困ってたから、ついアドバイスしたら、あっという間に広まっちゃって」

「出入りの業者さんや、お休みで実家に帰った子から、村中にまで……ほんと、ごめん!」

 両手を合わせて、頭を下げた。


「まぁドレスの件は、お嬢様のおかげで、上手く行ったから――許す!」

「やったー! ありがとーユナ!」

「上手く行ったって、どうやって⁉」

「聞きたい?……その前に二人に、ちょっと手伝ってもらいたい事が、あるんだけど?」


「「ぜひ、手伝わせてください‼」」

 声を揃えた友達二人に、侍女はにんまり微笑んだ。



【土曜日】

 そして翌日の午後4時半、裏庭の物陰から兎小屋を見張る、ユナとミックの姿があった。

「そろそろ、来るはずだよな?」

「うん、最近はいつもこの時間に、ハル達のおやつを……あっ! 来た‼」

 籠を片手に現れた料理長が、一昨日見た時よりも、一層重い足取りで、小屋に入って行く。


「はーっ……いったいロッティは、どこに――ん? ハルお前、何を付けてるんだ?」

 つぶらな瞳で見上げて来る、真っ白な子ウサギの首に巻かれた、レースのハンカチの結び目を解き、広げてみる。

 中から現れたのは、細く折りたたんだ便箋びんせんと、銀色の指輪。

「何だ――手紙?」


 紙を開くと、美しい文字で

『ケネス様 あなたが、あの日会った、『ロッティ』は、実はわたしです。

 いつも優しくしてくれるあなたに、お礼が言いたくて……ウサギの神様に、あのひと時だけ、人間にしてもらいました。

 もう、あの姿で会うことは出来ませんが。

 どうかこの指輪を、わたしだと思って……。 ハル』

 とつづられていた。



「さすがに、無理があったかな?」

「エマとジェインにも、手伝ってもらったんだけど……」

 文才のあるジェインと文面を考えて、字の綺麗なエマに、清書してもらった手紙。

 指輪は収穫祭のときに、屋台で買ったものだ。


 じっと押し黙ったケネスの姿を、はらはらと小屋の窓からのぞく、従者と侍女の耳に

「……そうだったのか」

 重々しく、絞り出した声が届いた。



 手紙と一緒に入っていた、薔薇の刻印が押された指輪を、左手の小指にはめた料理長が、両手でお耳掃除をしていた、白い子ウサギをそっと、両手で抱き上げる。

「おまえだったのか……ハル?」


「「信じたー-っ‼」」

 思わず両手を握り合った、ミックとユナの真下で

「たーえなーる夜のー闇が♪」

 低く優しい声が、歌い出す。


 優しく 君を包む

 心開いて 夢を咲かせる 君はわたしのもの


「……いい声」

「これ前世で、聴いたことある……なんの曲だっけ?」

「確か、ミュージカルの曲。オペラ座に住む怪人の」

 こそこそ小声で会話する、二人の視線の先で


「夜の調べの中でー♪」

 恋する歌姫を想う怪人の曲を、歌い上げたケネスが、優しく子ウサギを持ち上げ、目を合わせたとき。

「ぷぅっ……」

 可愛い声で鳴いたハルが、ふっと首を伸ばして、桃色の鼻先をちょんと、ケネスの鼻に当てた。


「「鼻チュー……‼」」

 あまりの愛らしさに、窓の外の二人が、身もだえていると

「ありがとな、ロッティ……!」

 何かが吹っ切れたような、料理長がにっかり、全開の笑顔を見せた。



「とりあえず……」

「大成功?」

 裏庭からモーニングルームに入って、グーでハイタッチ。

「……ちょっと、いやだいぶ、胸が痛むけど」

 うっと、左胸を押さえるミックに

「仕方ないよ。あきらめた方が、料理長のためだもん!」

 ユナが、きっぱりと告げる。


「だよな。でももし、自分だったらと思うと……」

 ため息まじりの、独り言のような声に、

『あれっ――? ミックって、好きな人いるの?』

 なぜかチクリと、子猫の細い爪がかすったように、心がザワつくユナ。


『あっ! シャーロット様の事……⁉ そうかそうか、「同担」だもんね!』

 と、無理くり気持ちを切り替えて。


「そうだよね。ごめんなさい、料理長」

「ほんと、ごめん……」

「でも、お嬢様と駆け落ちさせる訳には、いかないから――!」

『ケネスルート』を強制終了させた事に、ちくちくと痛む良心を抱える、転生者二人。



 その数日後

「あっ、ちょうど良かったケネス! 紹介しておくよ、わたしの婚約者……シャーロット、こちらが、料理長のケネス」

 温室の奥手にある、ハーブ園に向かう途中で、ウィルフレッドに呼び止められた、料理長が


「お久しぶりです。ミスター・パンテラ」

 公爵令嬢に、にっこりと微笑まれて、


「はっ――!? ハル? えっ、えっ? シャーロット様……? ええぇーーっ!?」

 混乱しながら、『パンテラ=ライオン』と言う名にふさわしい、雄たけびを上げ、


「『お久しぶり』……? もう、わたしの知らないどこかで、会っていたのかな?」


 婚約者のいない所で、黒い笑顔の領主に、ちくちくと問い詰められる事を……二人はまだ、知るよしもなかった。



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