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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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開票結果

【金曜日】

 二日間の投票期間を終え、ついに『シャーロット様のウェディングドレス、選ぶのはあなた!』選挙戦は、開票の日を迎えた。


 午前10時――昨夜のうちに、村の雑貨店から届いた投票箱と、使用人棟から移した箱の中身を、広間に持ち込んだ大きなテーブルの上に開けて、開票作業が始まる。

 家政婦と乳母、侍女に加えて、三人のメイドが次々と、投票用紙を広げていく。


 と、作業を始めた面々が、とまどいながら声を上げた。

「ミセス・ジョーンズ、これは……」

「ほとんどの用紙が、一緒です!」


『プリンセスラインを選ぶ人は『1』を、バッスルドレスは『0』を、記入してください』と、分かりやすく記入例を、掲示してあったはずなのに

「どれも『10』と、記入されてます……‼」



「これはやはり……『両方』、という事でしょうか?」

「そうだね――『どちらもステキで選べない』って声が、多かったらしいから」

 ミセス・ジョーンズとミセス・マウサーが、二人そろって、ため息をつく。

 その後ろで

『ちょ、エマとジェイン! あれだけ、「ここだけの秘密の秘策」って言ったのに……‼』

 自分発の『秘策』が、あっという間に、兎穴から村中にまで広がっていた事態に、侍女は無言で、おののいていた。


「せっかくの投票でしたが、ムダでしたね」

「あんなに頑張って、準備したのにねぇ……」

 しょんぼりと肩を落とす家政婦と乳母、そしてキリキリと痛む胃を抱える侍女に、

「ムダではありません!」

 きっぱりと、公爵令嬢が告げた。



「お嬢さま?」

「それは、どういう……」

「こちらを、ご覧くださいな」

 シャーロットが、ぱっと広げたのは、ミセス・ジョーンズから借りた、ファッション雑誌。

 開いたページには、控え目に広がったスカートの上に、バッスルが付いたデザインのドレスが。


「これは……」

「ちょうど、プリンセスラインにバッスルを、重ねたような、デザインですね!」

 胃の痛みを忘れて、声をはずませたユナに

「スカートのボリュームを、少しだけ押さえて、その上にバッスルを付けたら――どうかしら?」

 シャーロットは、にっこりと微笑んだ。



「ただ雑誌を、ご覧になっていただけじゃなく、こんな素晴らしい解決策を、考えてらしたなんて……さすが、お嬢様です!」

『祈りの形』に両手を組んだ、侍女の賛辞さんじに続いて

「本当に――あんな小さかったお嬢様が、こんな立派になられて……」

 涙がにじむ目頭を、エプロンで押さえる乳母。


「おおげさよ、二人とも」

 困り顔の令嬢に、笑顔を向けた家政婦が

「いえいえ、本当に素晴らしい采配さいはい……あっ!」

 いきなり、声を上げた。


「どうしました? ミセス・ジョーンズ」

「わたしとした事が――うっかりしておりました」

「何の事ですか?」

「『バッスル』です! スカートの下に着けて腰をふくらます、こちらの『バッスル下着』が無くては、ドレスを作るどころか――採寸すら出来ません!」

 先程の雑誌の、中ほどに載っている、『半分に切った鳥籠のような、下着の広告』を、家政婦はかかげて見せた。



「首都からの流行が後れて来る、この辺りの仕立て屋では、まだ取り扱っていないはず。

 ストランドのドレスメイカーに、オーダーして取り寄せるとなると、数週間はかかるかと……」

 がっくり、肩を落とす一同に

「大丈夫。そちらも手配済みです」

 未来の奥方が、にこりと答えた。


「お嬢様、いつの間に……!?」

「手配って、どの様に……?」

「昨日、ミスター・アンダーソンに頼んで、あちこちに電報を、打ってもらったの。ちょうど今、『配達員』が、首都にいらっしゃるでしょう?」

「配達員?……あっ!」

 首をかしげていた侍女が、ぽんっと手を叩いた時、



 遠く離れた首都ストランドで、

「はー-っくしょんっ……‼」

「ウルフ大尉、風邪ですか?」


『配達員』こと、ジェラルド・ウルフ海軍大尉が、特大のくしゃみをしていた。



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