開票結果
【金曜日】
二日間の投票期間を終え、ついに『シャーロット様のウェディングドレス、選ぶのはあなた!』選挙戦は、開票の日を迎えた。
午前10時――昨夜のうちに、村の雑貨店から届いた投票箱と、使用人棟から移した箱の中身を、広間に持ち込んだ大きなテーブルの上に開けて、開票作業が始まる。
家政婦と乳母、侍女に加えて、三人のメイドが次々と、投票用紙を広げていく。
と、作業を始めた面々が、とまどいながら声を上げた。
「ミセス・ジョーンズ、これは……」
「ほとんどの用紙が、一緒です!」
『プリンセスラインを選ぶ人は『1』を、バッスルドレスは『0』を、記入してください』と、分かりやすく記入例を、掲示してあったはずなのに
「どれも『10』と、記入されてます……‼」
「これはやはり……『両方』、という事でしょうか?」
「そうだね――『どちらもステキで選べない』って声が、多かったらしいから」
ミセス・ジョーンズとミセス・マウサーが、二人そろって、ため息をつく。
その後ろで
『ちょ、エマとジェイン! あれだけ、「ここだけの秘密の秘策」って言ったのに……‼』
自分発の『秘策』が、あっという間に、兎穴から村中にまで広がっていた事態に、侍女は無言で、おののいていた。
「せっかくの投票でしたが、ムダでしたね」
「あんなに頑張って、準備したのにねぇ……」
しょんぼりと肩を落とす家政婦と乳母、そしてキリキリと痛む胃を抱える侍女に、
「ムダではありません!」
きっぱりと、公爵令嬢が告げた。
「お嬢さま?」
「それは、どういう……」
「こちらを、ご覧くださいな」
シャーロットが、ぱっと広げたのは、ミセス・ジョーンズから借りた、ファッション雑誌。
開いたページには、控え目に広がったスカートの上に、バッスルが付いたデザインのドレスが。
「これは……」
「ちょうど、プリンセスラインにバッスルを、重ねたような、デザインですね!」
胃の痛みを忘れて、声をはずませたユナに
「スカートのボリュームを、少しだけ押さえて、その上にバッスルを付けたら――どうかしら?」
シャーロットは、にっこりと微笑んだ。
「ただ雑誌を、ご覧になっていただけじゃなく、こんな素晴らしい解決策を、考えてらしたなんて……さすが、お嬢様です!」
『祈りの形』に両手を組んだ、侍女の賛辞に続いて
「本当に――あんな小さかったお嬢様が、こんな立派になられて……」
涙がにじむ目頭を、エプロンで押さえる乳母。
「おおげさよ、二人とも」
困り顔の令嬢に、笑顔を向けた家政婦が
「いえいえ、本当に素晴らしい采配……あっ!」
いきなり、声を上げた。
「どうしました? ミセス・ジョーンズ」
「わたしとした事が――うっかりしておりました」
「何の事ですか?」
「『バッスル』です! スカートの下に着けて腰をふくらます、こちらの『バッスル下着』が無くては、ドレスを作るどころか――採寸すら出来ません!」
先程の雑誌の、中ほどに載っている、『半分に切った鳥籠のような、下着の広告』を、家政婦はかかげて見せた。
「首都からの流行が後れて来る、この辺りの仕立て屋では、まだ取り扱っていないはず。
ストランドのドレスメイカーに、オーダーして取り寄せるとなると、数週間はかかるかと……」
がっくり、肩を落とす一同に
「大丈夫。そちらも手配済みです」
未来の奥方が、にこりと答えた。
「お嬢様、いつの間に……!?」
「手配って、どの様に……?」
「昨日、ミスター・アンダーソンに頼んで、あちこちに電報を、打ってもらったの。ちょうど今、『配達員』が、首都にいらっしゃるでしょう?」
「配達員?……あっ!」
首をかしげていた侍女が、ぽんっと手を叩いた時、
遠く離れた首都ストランドで、
「はー-っくしょんっ……‼」
「ウルフ大尉、風邪ですか?」
『配達員』こと、ジェラルド・ウルフ海軍大尉が、特大のくしゃみをしていた。




