表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/155

従者の秘密

【木曜日】

「あっ! ねぇ、ミック見なかった⁉」

 翌日の午後、4時からの休憩時間にユナは、顔見知りの従僕、ニコラスことニックに、声をかけた。


「ミック? あぁ、ヒマな時はよく『兎小屋』に行ってるよ。

 ジェルさんがいなくて、俺らもヒマだし……早く帰って来てくれないかなー!」

「来週の初めには、戻られる予定だよ」

「マジで!? やったー!」

 ガッツポーズで浮かれる、ニックに手を振って、裏庭に急ぐ。


「相変わらず、ジェラルド様、大人気だな~」

 お嬢様も、ヒマを持て余してらっしゃるのか、ミセス・ジョーンズから借りた、ファッション雑誌ばかり見ているけど。



 庭園を挟んで、使用人棟や厨房ちゅうぼうと、反対の隅にある兎小屋。

 きちんと掃除された、小さな小屋の扉は、情報通りに鍵が外れていた。


 そっと扉を開くと、乾いた干し草に座る、ミックこと、ミカエル・ドッゴの後ろ姿が。

 窓から入る光を頼りに、木製の画板がばんの上で、手を走らせている。

『仕事の書類かな?』

 だったら、邪魔しちゃ悪いし。


 音を立てないように近づき、後ろからそっと、のぞきこんだユナ。

「えっ……」

 画板に挟んだ紙に描かれた、スケッチが、目に飛び込んで来た。


 籠の中で、くうくう寝息を立てている、ハルとナツ。

 その姿が、簡単な線で、愛らしく表現されている。

 それは、スケッチというより『イラスト』。

 しかも、選挙用に描かれた『見本図』と、同じタッチの。


「ミック、だったの……?」

 ぱっと、振り返った顔が

「あの、お嬢様の『イラスト』描いたの、ミックなんでしょ?」

 驚きに目を見開いたユナをとらえ、気まずそうに、口を開く。

「うん……俺です」


『ほんの出来心です』とでも言い出しそうな、神妙しんみょうな顔を見て

「びっくりしたぁ~!」

 何だかほっとした侍女が、わざと大袈裟に、声を上げると

「大成功……?」

 前世のドッキリ番組を真似て、従者はぎこちなく、おどけて見せた。



「絵、すごい上手だね! 前世から描いてたの?」

「うん。絵描くのは、小さい頃から好きだった」

「剣道しながら?」

「中学のときは剣道ばっかで、忘れてたけど。

 高校入ったら、あまり部活動に力入れてなくて。

 朝練も無いし、ヒマ持て余して――スマホとかで描いてみたら、ハマっちゃって」


「ミセス・ジョーンズは、ミックが絵得意なの、知ってたんだね?」

『残業』って、この事だったのか――と納得しながら、ユナがたずねる。


「得意っていうか――こっちでも子供の頃から、よく『お絵描き』してたから。

 あのひとは、うちの母親の幼馴染おさななじみで、小さい頃は弟と一緒に、よく遊んでもらったし。ここで働き始めてからも、すごくお世話になってるんだ。

 マーガレット叔母さんは、『兎穴の母さん』みたいな人――かな?」

 少しうつむいたまま、照れくさそうに、ミックは話した。


「『兎穴のお母さん』かぁ……だったら、協力したくなっちゃうね!」

「うん。あんな大きなサイズ描くの、初めてだったから、徹夜仕事になったけど。

 喜んでくれる顔見たら、こっちも嬉しかったし」

「わかる、わかる」

 うんうんと、大きくうなずきながら、ユナは、ウルフ村の家族を想う。

 お父さんもお母さんも兄さん達も、みんな元気かな?



 少ししんみりとした後で、はっと思い出した。

「そうだ! ミックに相談したいことが、あったの!」

「相談?」

「うん。実は、新たな『攻略対象者』が、現れて……」

 と、説明を始めたとき


 キィッ――と、小屋の扉が開いて

「おっ……お邪魔だったか?」

 当の攻略対象者、ケネス・パンテラが、人参スティックの入った籠を片手に、目の下にクマの浮かぶ、憔悴しょうすいした顔をのぞかせた。



「おっ『お邪魔』って……」

 何故か、あわあわと口ごもるミック。

「全然、お邪魔じゃないです! ほらミック、休憩時間そろそろ終わりだよね? どうぞ、料理長……‼」

 きっぱりと言い切ったユナは、少ししょんぼり気味なミックをせかして、小屋の外に。


 扉をそっと閉めるときに、

「今日も、ロッティに会えなかったよ……」

 ハルたちにつぶやく、ため息まじりの声が、もれ聞こえた。



「それで? 『攻略対象者』って、いったいどこに!?」

 気を取り直して、問いかける従者に、侍女は無言で、たった今出てきた、扉を指した。


「え――まさか」

 こくりとうなずき、

「そう、『ケネスルート』が、始まってしまったの……」

「なんで――! いつの間に!?」

 口をあんぐり開いたミックを、モーニングルーム前まで連れて行き、おおよそのいきさつを、ユナが説明する。


「……という訳で、シャーロット様は『言葉がよく通じない異国のひと』認識、だけなんだけど。料理長は『運命の出会い』って、思い切り勘違いしちゃってて」

「あちゃー……」

「どうしたらいいと思う?」

「どうしたらって……」

 うーんと組んだ腕を、ぱっと開いて

「お手上げ?」


「もっと真剣に! このままだと、厨房ちゅうぼうの危機……兎穴全員が、また美味しい食事を頂けるかどうかの、瀬戸際せとぎわなんだから!」

「まじでか!?」

 一気に、ミックの顔が青ざめた。



 また腕を組み、しばし考えたあとで

「要は……シャーロット様、いや『ロッティとは、二度と会えない』という状況を、料理長に納得させれば、いい訳、だよな?」

「何かいい考え、思いついたの!?」

「うん……上手く行くかは、分からないけど……」

「どうするの⁉」

 意気込んだユナの声に、すっと左手の親指を、後方の兎小屋に向けて


「『ハル』に、手伝ってもらう」

 にんまりと、ミカエル・ドッゴは答えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ