侍女の日記9
【水曜日】
◇◇◇
こんばんは、ユナです!
ついに始まりました、総選挙!
ここ、兎穴の使用人棟1階ホール(普段は毎朝、朝礼が行われる場所)では、メイドや従僕たちが仕事終わりに、わらわらと見本の絵を見上げ、どちらに投票するか、盛り上がっております。
ではここで、インタビューを……
「すみません、どちらに投票するか、決まりましたか?」
「えーっ! 迷う~……どちらもステキ過ぎて」
「ですよねー!」
現場からは、以上です!
「デザインもステキだけど……この絵もすごいよね!」
「ほんと! ささっと、描いてるように見えるけど、シャーロット様って、すぐ分かるし!」
確かに、こちらで良く見かける、いわゆる『西洋画』とは違って、目鼻や口元、髪型も、シンプルな線で描かれている。
まるで
「まるで、『千バラ』のシャーロット様みたい」
ぽつりと呟いた声を
「ん? 何か言った、ユナ?」
うっかり、エマに拾われて
「何でもない! エマは、どっちに投票するか決まった?」
慌てて質問を返せば
「う~ん……プリンセスラインを着た、シャーロット様も見たいけど、バッスルドレスも、どんな感じか見てみたいし」
眉根を寄せて腕組した、エマの隣で
「ほんと、決めるの無理! どっちも見たいー!」
ジェインも、困り切った顔で、声を上げる。
「ユナだって、迷ってるでしょ?」
ふっふっふ……。
「なに、その余裕の笑顔!」
「もぉ、決まったの⁉」
二人の問いかけに、ちっちっちっと、人差し指を振って。
「とっておきの『秘策』があるんだ――聞きたい?」
「「聞きたい……‼」」
「ここだけの秘密だよ? あのね……」
友達二人にこっそりと、『秘策』を耳打ちした。
「あんな方法があったなんて――びっくり!」
「ユナ、すごい――天才!」
「でしょ、でしょ?」
投票を済ませ、すっきり笑顔で三人、使用人用食堂に向かうと
「えっ、何この雰囲気⁉」
「めっちゃ、暗いんですけど……!」
どんよりと、空気が沈んでいる。
メニューも『具少なめスープとパン、トマト丸ごと1個、作り置きフルーツケーキ』という、一昨日と落差が、激し過ぎるラインナップ。
しかも
「すみません! このスープ、塩味が足りないと思いますので」
と、キッチンメイドが、申し訳なさそうに、塩の容器を手渡して来た。
「えっ、料理長どうしたの? 病気?」
「一昨日は、あんなにご機嫌で、歌ってたのに?」
エマとジェインの問いかけに
「実はあれ以来、恋人と、会えてないらしくて……料理長、メンタルがすぐ、料理に出るから」
ため息交じりに答える、キッチンメイド。
「このままだと、厨房の危機――料理長の恋、どうか上手く行きますように!」
しまった……選挙に夢中になって、『ケネスルート』対策、すっかり忘れてた‼
お嬢様には『木や生垣の手入れをするので、裏庭にはしばらくの間、立ち入らないでください――と連絡が来ました』って、伝えておいたけど。
わたし一人だと全然、良い考え浮かばないし。
明日、必ずミックに相談すること!
ミックの仕事が、ひと段落付いてることを祈りながら……
おやすみなさい。
(ユナの日記より)




