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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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侍女の日記9

【水曜日】

◇◇◇

 こんばんは、ユナです!

 ついに始まりました、総選挙!


 ここ、兎穴の使用人棟1階ホール(普段は毎朝、朝礼が行われる場所)では、メイドや従僕たちが仕事終わりに、わらわらと見本の絵を見上げ、どちらに投票するか、盛り上がっております。

 ではここで、インタビューを……


「すみません、どちらに投票するか、決まりましたか?」

「えーっ! 迷う~……どちらもステキ過ぎて」

「ですよねー!」

 現場からは、以上です!



「デザインもステキだけど……この絵もすごいよね!」

「ほんと! ささっと、描いてるように見えるけど、シャーロット様って、すぐ分かるし!」

 確かに、こちらで良く見かける、いわゆる『西洋画』とは違って、目鼻や口元、髪型も、シンプルな線で描かれている。

 まるで

「まるで、『千バラ』のシャーロット様みたい」


 ぽつりとつぶやいた声を

「ん? 何か言った、ユナ?」

 うっかり、エマに拾われて

「何でもない! エマは、どっちに投票するか決まった?」

 慌てて質問を返せば


「う~ん……プリンセスラインを着た、シャーロット様も見たいけど、バッスルドレスも、どんな感じか見てみたいし」

 眉根を寄せて腕組した、エマの隣で

「ほんと、決めるの無理! どっちも見たいー!」

 ジェインも、困り切った顔で、声を上げる。

「ユナだって、迷ってるでしょ?」

 ふっふっふ……。


「なに、その余裕の笑顔!」

「もぉ、決まったの⁉」

 二人の問いかけに、ちっちっちっと、人差し指を振って。


「とっておきの『秘策』があるんだ――聞きたい?」

「「聞きたい……‼」」

「ここだけの秘密だよ? あのね……」

 友達二人にこっそりと、『秘策』を耳打ちした。



「あんな方法があったなんて――びっくり!」

「ユナ、すごい――天才!」

「でしょ、でしょ?」

 投票を済ませ、すっきり笑顔で三人、使用人用食堂に向かうと


「えっ、何この雰囲気⁉」

「めっちゃ、暗いんですけど……!」

 どんよりと、空気が沈んでいる。


 メニューも『具少なめスープとパン、トマト丸ごと1個、作り置きフルーツケーキ』という、一昨日と落差が、激し過ぎるラインナップ。

 しかも

「すみません! このスープ、塩味が足りないと思いますので」

 と、キッチンメイドが、申し訳なさそうに、塩の容器を手渡して来た。


「えっ、料理長どうしたの? 病気?」

「一昨日は、あんなにご機嫌で、歌ってたのに?」

 エマとジェインの問いかけに

「実はあれ以来、恋人と、会えてないらしくて……料理長、メンタルがすぐ、料理に出るから」

 ため息交じりに答える、キッチンメイド。

「このままだと、厨房ちゅうぼうの危機――料理長の恋、どうか上手く行きますように!」



 しまった……選挙に夢中になって、『ケネスルート』対策、すっかり忘れてた‼

 お嬢様には『木や生垣いけがきの手入れをするので、裏庭にはしばらくの間、立ち入らないでください――と連絡が来ました』って、伝えておいたけど。



 わたし一人だと全然、良い考え浮かばないし。

 明日、必ずミックに相談すること!


 ミックの仕事が、ひと段落付いてることを祈りながら……

 おやすみなさい。


(ユナの日記より)


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