選挙の準備
【火曜日】
「投票箱は、使用人棟1階ホールと、村の雑貨店に置く予定です。
投票用紙は、裏の白い余り紙を、学校で生徒達が、人数分切ってくれる事になっています。
投票箱も学校の備品を、お借りすることが出来ました」
翌日の午前中、家政婦のミセス・ジョーンズが、『選挙』の準備状況を、流れるように、奥方の間で説明した。
「素晴らしいわ、ミセス・ジョーンズ! 昨日のうちに、そこまで用意できるなんて……」
胸の前で両手を組み合わせ、感嘆しながら、賛辞を送るシャーロット。
「本当に素晴らしいです――尊敬します!」
ぱちぱちと拍手を送りながらユナも、憧れのまなざしで、兎穴の家政婦を見つめる。
「そんな……アメリア、いえミセス・マウサーの助言のおかげです! わたし一人では、とても――」
少し頬を染めて、首を横に振る家政婦に
「そんなことありませんよ! まぁわたしも少しは、お手伝いしましたけどね……ほとんどはこの、マーガレットのお手柄ですよ!」
狼城の乳母は笑顔でぽんっと、ミセス・ジョーンズこと、マーガレット・ジョーンズの背中を叩いた。
「ミセス・ジョーンズは、『マーガレット』というお名前なのね?」
「可愛いお名前ですよね――おばあちゃんの名前が『アメリア』だって、忘れてました」
「あの二人、ファーストネームで呼び合っているなんて……本当に、仲良しなのね?」
「選挙の件で、仲たがいしてしまったかと、心配しましたけど――良かったですね!」
こそこそと、小声で話していたシャーロットとユナに
「そしてこちらが、投票場に貼る――『見本図』です!」
家政婦と乳母はそれぞれ、二枚の大きな紙を広げて、得意そうに、かかげて見せた。
紙の上にはそれぞれ、美しいドレスを身にまとった、レディが描かれている。
上半身はどちらも同じ、慎ましく開いた襟元と短いパフスリーブが、レースやリボンで飾られている。
スカート部分は、一枚は裾に向かって、華やかに広がる、プリンセスライン。
もう一枚は、細身のスカートの上にドレープを寄せて、腰の後ろでふくらませ、長い裳裾を優雅に引いた、バッスル・ドレス。
そして、ドレスを着ているレディの顔は
「お嬢様……シャーロット様に、そっくりです――‼」
公爵令嬢に、『生き写し』だった。
「驚いたわ……! こんな上手――いえ素晴らしい絵、どなたが描かれたのかしら?」
「ヘア村に、有名な画家さんが、いらっしゃるんですか⁉」
口々に驚きの声を上げる、令嬢と侍女に
「それは――お答えできないのです。本人から、固く口留めされておりますので」
困り顔で、でも誇らしげに、ミセス・ジョーンズは答えた。
「明日からいよいよ、投票が始まりますね――負けませんよ、アメリア!」
「こっちだって、負けるつもりはありませんからね、マーガレット!」
がっちりと握手を交わす、家政婦と乳母。
『シャーロット様のウェディングドレス、選ぶのはあなた!』選挙戦、運命の開票日まで、あと三日!




