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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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2章 プロローグ

 サウザンド王国北部に位置する、ヘア伯爵領。

 その若き領主、ウィルフレッドの屋敷、ヘア・ホール(ヘア邸)。

 通称『兎穴』の三階にある、『奥方の間』。


 窓越しにうららかな、初秋の日差しが差し込む、淡いグリーンを基調とした美しい部屋の中では、喧々諤々(けんけんがくがく)な討論が、繰り広げられていた。



【月曜日】

「いいえ――お嬢様には絶対、プリンセスラインがお似合いです!」

 領主の婚約者、シャーロットの乳母が、自信満々に断言する。


「何しろお小さい頃からずっと、お傍でお仕えしておりますから、お嬢様にお似合いな――いえ! もちろんどんなドレスでも、お似合いですけど! 

 とにかく、伝統的なラインのドレスを着たお嬢様が、それこそ姫君のように、お美しくて愛らしいことは、このわたしが、よーく知っておりますから!」

 鼻息も荒く、言い切る乳母に

「それは――そうでしょうとも! シャーロット様のことを一番お分かりなのは、ミセス・マウサーに間違いありません!」

 家政婦のミセス・ジョーンズが、深くうなずく。


「わかってくれましたか!」

 喜びの声を上げる、ミセス・マウサーこと乳母に

「でも……」

 ばさっと、首都ストランドから届いたばかりの、ファッション雑誌を広げて

「今の流行はやりは、『バッスルドレス』! この腰をふくらませた、細身のシルエット――シャーロット様のような、すらっとした方にこそ、ぴったりなデザインです!」

 ミセス・ジョーンズは、高らかに宣言した。


「お嬢様……どういたしましょう?」

「困ったわね――ユナ」

 この部屋のあるじと侍女が、揃ってため息をついた。



 事の起こりは、川に落ちて泥だらけになった『ウェディングドレスの修復』。

 収穫祭の翌日から、ヘア村の仕立て屋と針自慢の村人が、兎穴に集まり、ドレスの状態を確認。

 ほぼ無傷なボディス部分はそのままに、汚れのひどいスカート部分を取り外して、新しく作る事に決まったのだが……。

 そこで、スカートのデザインをめぐって、思わぬ論争が始まってしまった訳である。


『プリンセスVSバッスル』。

 狼城サイドのトップと、兎穴使用人トップの戦い。

 仕立て屋や村人たちもただ、おろおろと見守るのみ。


「お嬢様――!」

「シャーロット様!」

 トップ二人に、呼びかけられ

「な、何かしら?」

 恐る恐る答えた、公爵令嬢に


「「どちらのドレスがお好きですか――!?」」

 スフィンクスの謎よりも難しい質問が、投げかけられた。



「そ、そうね……どちらも、素敵ね?」

 困り果てて眉根を寄せ、作り笑顔で答えるシャーロット。

 その姿に、ぶちっと我慢のリミッターが、振り切れたユナが

「はいっ!」

 勢いよく、右手を挙げる。

「投票で決めたら、いかがですか!」


「「投票……?」」

 そろって首をかしげた、トップ2人に

「どちらのドレスが良いか、お屋敷の使用人やヘア村の人たちに選んで、投票してもらうんです! より多く票を集めたデザインのドレスを、お嬢様が結婚式で、お召しになるという事で……」

 いかがでしょう?と、力説する侍女に


「なるほど……」

「それは、いい考えね」

 乳母と家政婦は、深くうなずいた。



「投票期間は、明後日から2日間、その翌日に開票するとして――明日中に投票箱と投票用紙の準備、それから……『見本』がいりますね」

 前世の学生時代に、『生徒会役員選挙』を手伝った経験を思い出しながら、スケジュールを組み立てて行く侍女を、感心したように見つめながら、家政婦がたずねた。


「『見本』とは?」

「ただ『プリンセスライン・バッスルドレス』と言われても、どんなデザインか分かりませんよね? 

 雑誌の切り抜きとか……本当はお嬢様をモデルに、イラスト――いえ! 絵で描いた物を、投票箱の上に提示けいじすれば、分かりやすいかと。

 でもそんな都合良く、絵の上手な方は見つから」

「――見つかります!」

「え?」

「その件は、わたしにお任せください!」

 ミセス・ジョーンズが、ぽんと、胸を叩いた。



 かくしてヘア領内で、『シャーロット様のウェディングドレス、選ぶのはあなた!』選挙戦が、華々しく幕を開けた。


 そして、その騒ぎの裏でひっそりと、『新たな攻略ルート』が始まることを……誰も、シャーロット本人さえも、知るよしはなかった。



2章、スタートしました!

1章に、ブックマークやいいね、評価や感想をくださった方、訪問してくださった方、本当にありがとうございました。

引き続き、楽しんで頂けると嬉しいです♪


※バッスルドレスは、英国ヴィクトリア朝後期に流行したデザイン。日本では、鹿鳴館時代のドレスとして有名。今でも結婚式のドレスとして、人気のスタイルです。


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