表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/155

ナイフ投げ

 侍女がじっと、見つめる先にあったのは

「『ナイフ投げ』?」

 前世のダーツのように、まとに向かって、細いナイフを投げるゲーム。


 満点を出すと、もらえる景品――ラベンダー色のリボンを首に結んだ、くるくる柔らかそうな銀色の毛と、紫色の丸い瞳が愛らしい『テディベア』――を、食い入るように見つめている。

「あのクマが、欲しいのか?」

 従者の問いかけに、こくりとうなずいて

「前世で持っていた子に、そっくり……」



「はい、いらっしゃい! ここから投げてね――線を越えたら、失格だよ!」

 数枚の硬貨と引き換えに渡された、5本のナイフを手に、ミックがかまえる。

「頑張って――!」

 ユナの声援を聞きつけて

「おっ、彼女が応援してるぞ――!」

「頑張れ、兄ちゃん!」

 わらわらと、ギャラリーが寄って来た。


『集中!』

 一瞬目を閉じて、前世の剣道の部活でつちかった、集中力を思い出す。

 片足を引いて身構え、右手にはさんだナイフを、まとに向かって、勢いよく放った。


「はい、残念賞―!」

 店主から、小さな紙袋に入ったキャンディを受け取り、がっくり肩を落とす。

 結果は、50点満点中25点。


「おしかったねー!」

 ぱちぱちと、笑顔で拍手をするユナの隣で

「初めてにしては、まあまあだな」

「最初の踏み込みが、ちと甘かったんじゃないか?」

 口々に解説を始める、ギャラリーたち。


 その後ろから「失礼……」

「えっ、シャーロット様――!?」

 公爵令嬢がしとやかに、歩み寄って来た。



「わたくしにも、やらせて頂けるかしら?」

 にこりと微笑まれた店主は、顔を真っ赤にして叫んだ。

「もも、もちろんですー! 少々お待ちを――今すぐまとを、女性用に変えますので!」

 真ん中の10点満点の部分が、倍以上大きな的を、取り出した店主に

「そのままで、結構よ?」

 シャーロットは、さわやかに告げた。


 みっちりと詰めかけた、ギャラリーが息を呑む中、ふわりと、線の中に立つ。

 すっとナイフを持った左手をかまえ、シュッ、トン、シュッ、トン、シュッ、トン――! 

 次々と、流れるように、的に放った。


「満点……50点満点ですー‼」

 的の中央にキレイに、放射線状に刺さった5本のナイフ。

 ギャラリーから、どよめきと拍手が、わき起こる。



「お嬢様! さすがですーっ‼」

 夢中で拍手をする侍女に、公爵令嬢はにっこりと、店主から受け取ったテディベアを、差し出した。


「はい、ユナ」

「えっ……えぇーっ⁉ そっそんな、頂けません‼ この子は、お嬢様の子です!」

 慌てて辞退する様に、首をかしげて

「ユナが欲しがっていたから、頑張ったのに――受け取って貰えないなんて、悲しいわ」

 しょんぼりと、肩を落とすシャーロット。


「なんて思いやりのある……さすがシャーロット様!」

「お嬢ちゃん――お嬢様のお気持ち、受けとってやれよ!」

 男泣きする、ギャラリーのおじさんたちに、うながされて


「ありがとうございます、お嬢様。一生、大切にします……!」

 嬉しそうに、こくりとうなずく、あるじそっくりのテディベアを、ユナは思い切り、両手で抱きしめた。



 ぽん……ぽん……ぽん。

 あっけに取られて、一部始終を見ていたミックの肩を、ギャラリーや従僕仲間が、次々と叩いていく。


「ちょ、なんでだよ――全然、がっかりとかしてないし――やめろって! えっ、ミスター・アンダーソン!? ちょ、ジェルさんまで……‼」



 尊敬する執事に加え、「負けても仕方ないさ。ロッティは俺の、一番弟子だからな?」鼻高々な、『フィッシュ・アンド・チップス』片手の海軍大尉にまで。

 しみじみと、肩ポンされた従者は、


「は~っ……!」

 と、地面に穴があくような、特大のため息をこぼした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ