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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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収穫祭

 事件から二日後、ようやく復職を許されたユナを、待ち受けていたのは、

「え? 『収穫祭しゅうかくさい』、ですか?」

「そう、だから――今日もお休みよ!」

 奥方の間の窓を、開け放ったシャーロットが、屋敷の前庭に魔法のように現れた、たくさんの天幕てんまくを、楽しそうに披露ひろうした。



 中央の、ひときわ大きな天幕には、たくさんのパイやタルトにケーキ、スコーンやサンドイッチが並び、招待された村人たちが、お茶を楽しんでいる。

 その周りを、はしゃいで駆け回る子供たち。


「輪投げにボウリング、人形劇、楽団や占いのテントまで……にぎやかですねー!」

 淡いモスグリーンのドレスを着たユナが、声をはずませる。

「懐かしいわね……?」

 狼城でも今頃、両親と兄が、村人たちと祝っていることだろう。


 落ち着いた、鳩羽根色のドレスに、日傘を手にした公爵令嬢が、目立たない場所から、周りを眺めていると

「あの――シャーロット様?」

 リンゴのような赤い頬をした、一人のおばあさんが、声をかけて来た。



「はい……なんでしょう?」

 ぎゅっと日傘を握り、緊張しながら、答えると


「お話、聞きましたよ!」

「侍女をかばって、ガラスまみれになられて」

「その上、銃を持った犯人に、立ち向かって行かれたなんて!」

「なんてお優しくて、勇気がおありなんだろう……!」

 わっと、晴れ着姿の、老女の集団に囲まれて、口々に賞賛の言葉をかけられる。


「いや、まったく――狼城にもこんな、素晴らしいレデイがいたとは」

「我らがウィルフレッド様に、ふさわしい奥方様だ!」

 輪の後ろでは、その夫たちが、満足気にうなずいていた。



「大人気だな……さすがシャーロット!」

「ウィルフレッド様!」

 あっけに取られていた、ユナが振り向けば、今日の晴れ渡った空のような、笑顔の領主が、

「ユナ、身体の方は、もういいのか?」

 優しく、たずねてくる。


「はい! 全然、元気です!」 

「ウィーズルは昨日、首都の警察に連行されたから、安心していいよ」

「ありがとうございます。そういえば――ゴート卿は、どちらに?」


 率先そっせんしてお祭りを、楽しんでいそうな姿が見当たらず、ユナがたずねると

「伯父上は――ウィーズルの正体に、気づけなかった事を、とても後悔されていて。せめてものつぐないにと、犯人が捕まったことを、父と母に、伝えに行ってくれたんだ……これを機会に、父の記憶がすっかり、戻ってくれるといいんだけど」


 心配そうな領主を、はげますよう、ユナはことさら、明るい声を出す。

「そういえば、シャーロット様から、お聞きしましたよ! 毎日遅くまで、お出かけだったのは、ご結婚に反対していた村の人たちを、説得してらしたからって……!」

 一番の反対派だった元村長の家に、可愛い孫娘がいたことから、おかしなウワサが立ち、テリー伯父様の誤解の元に、なったワケだが。


「うん。狼城と、いさかいがあった頃を、覚えているお年寄りほど、反発する人が多くてね。でも、シャーロットの人となりを知れば、絶対に、わかってくれると思ってた!」

「おっしゃる通りです!」

 村人達の輪に囲まれて、初めは、とまどっていた公爵令嬢も、今は花が咲くような笑みを浮かべて、一人一人に声をかけている。


「そろそろ、救出してくるよ」

 輪に割って入って行った、ウィルフレッドが、シャーロットの肩を抱き寄せながら

「みんな、わたしの婚約者に夢中らしいね?」

 にやりと笑って、周囲を見渡し

「決闘なら、受けて立つよ?」


 どっと笑い声が、上がった後から

「よっ、ウィルフレッド様!」

「おめでとうございます!」

「シャーロット様、お幸せに……!」

 わっと、ひときわ大きく温かな、拍手と歓声が、わき起こった。



 一緒になって、思い切り手を叩いていた、ユナの耳に

「あっ、ユナ!」

「もう大丈夫なのー?」

 聞き覚えのある、声が届いた。

 それぞれ可愛いドレスを着た、エマやジェインたちが、手を振っている。


「うんっ! 全然、大丈夫!」

「良かった! あっちに、小間物屋こまものやさんが出てるから、一緒に見ない?」

 誘われて、お嬢様の方をうかがうと、にこりとうなずいてくれた。

「行く行くー!」

 わちゃわちゃ、にぎやかに歩きながら、ユナはすっと、ジェインの隣に並んだ。


「お話、読んだよ……」

 小声で、ささやく。

「えっ、もぉ?」

「うん。めちゃめちゃ――面白かった!」

「――ほんと?」

「ほんとっ! あの姫と王子が初めて出会うシーンとか、魔女の呪いで、姫の事を忘れる『とんちき王子』を、それでも愛して、試練を乗り越える、けなげなお嬢様――じゃなくて『お姫様』とか……もう最高! こんな名作、わたしが独り占めするの、もったいないよ‼」


 早口で感想を、まくし立てたユナが、『はっ――まずい!引かれる‼』と恐る恐る、ジェインの顔に、視線を移すと

「あ、ありがと……そんなに、ほめられたの初めて。すっごく嬉しい!」

 頬をほんわり染めた、はにかんだ笑みが。


「こっちこそ! あんな素敵なお見舞い、初めて。ホントにありがと!」

 二人揃ってほっこり笑顔で、両手を握り合った。


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