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サウザンド ローズ ~転生侍女は、推しカプの尊さを語りたい~【番外編16「『時のはざま書店』にようこそ」完結☆】  作者: 壱邑なお


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侍女の日記7

 エマ達と入れ替わりに、シャーロット様とやって来た、おばあちゃん。

 空になった、リゾットのうつわを手に

「食欲はあるようだね、良かった良かった! それじゃあ、これを返しがてら、お茶を頼んで来るから」


  厨房ちゅうぼうへ向かう、おばあちゃんの背中を見送ったお嬢様が、枕元の木の椅子に、ふんわりと座った。

「具合はどう?」

「全然大丈夫です! 何なら、午後から仕事に――」

「いけません」

 起き上がろうとした肩を、やんわりと押し戻される。

 あきらめて、ベッドに横になる前に


「昨日は本当に、申し訳ございませんでした! 勝手に行動したせいで、お嬢様をあんな危険な目に――わたしは、侍女失格です!」

 改めて、心から謝罪する。

 あ、『侍女失格』って……昨日も言ったっけ?


「何を、言ってるの?」

 白くて優しい、そして強い手が、わたしの左手を、ぎゅっと握った。

「確かにユナは、侍女だけど……わたくしのたった一人の、『お友達』でもあるのよ?」


 だから、助けに行くのは当然でしょ?


「と・も……?」

 壊れたロボット(というたとえは、もちろんこの世界にはない)のように、ぎこちなく見上げると、微笑んでうなずく天使が……。


「も、もも、もったいないお言葉――きき恐縮きょうしゅくですーーっ‼」

 思いがけないサプライズに、ドッカンドッカン……脳内で花火が、打ち上っている最中、

「よぉ、元気そうだな?」

 男子禁制の女子使用人部屋に、ジェラルド様がナチュラルに、顔をのぞかせた。



「ユナも、妹みたいなもんだから――大丈夫だろ?」

 のんきな声で、真っ白な布でおおった、お皿を差し出す。

「ほら、見舞い」

「えっ、ありがとうございます!」


 そっと布を持ち上げると、中から現れたのは

「アップルパイ……!」

 しかも、こちらの世界でおなじみの、大きなパイ皿で焼くタイプではなく。

 細長いパイ生地で、フィリングをはさんだ……前世の、ファストフードの商品に、そっくりの!


「見てると冷めるぞ。食べてみろ」

 うながされて遠慮なく、ぱくりとかじりつく。

 サクサクの生地の間から、まだ温かい林檎が、ごろりとこぼれ出た。


「おいひぃ……!」

 めちゃめちゃ懐かしい味に、涙目でぱくついていると

「それな、ミックから」

「は……?」

 ジェラルド様の口から、思いがけない名前が。


「料理長に頼み込んで、作ってもらったらしいぞ」

 その代わり、今日はあいつが『薪割り担当』だと、笑う従兄弟に

「ミックって、ウィルフレッド様の従者じゅうしゃの?」

 まるで小動物のように、アップルパイを両手に持ったシャーロット様が、小首をかしげる。


「そうだ、ミカエル・ドッゴ」

「昨日も思ったのだけど――いつの間に、そんなに仲良くなったの?」

 じっと、バイオレット・サファイアのような瞳で、見つめられ

「いっいえ! 仲良くなんて、なってませんっ! そのっ――たまたま犯人が書斎に入る所を、たまたま一緒に見つけただけで……‼」

 早口で言い訳をする、侍女で友達のわたし、ユナ・マウサーを見て、楽しそうに目を細めるお嬢様。



「シャ、シャーロット様こそ、あんなに――ご自分の命をかけるくらい、ウィルフレッド様から、想われてらして!」

「命って……おおげさよ、ユナ」

 ほんわりと頬を染めた、お嬢様の言葉を

「大袈裟じゃないです!」

「うん――確かにあれは、命がけの顔だった」

 わたしとジェラルド様が、そろって否定する。



「そういえばあのとき、心臓の音が聴こえたわ……」

 ぽつりと、シャーロット様が、つぶやいた。

「心臓――ウィルのか?」

「えぇ……すごく大きな音で。どくどくと早く鳴っていて――それを聴いて、思ったの」

「何を、ですか?」

「ひょっとしたら、この人は本当に――わたくしの事を、少しは、好きなのかしら――って」



 恥ずかしそうに、うつむいて、やっとの思いで、しぼり出した告白を

「いや、あれは――『少し』どころじゃないだろ! あいつ酔うと、『ノロケ大会』始めるぞ!」

「だって、あの方……わたくしの事、からかってばかりで」

「あれは、照れ隠しです! ジェラルド様、その『ノロケ大会』、もっと詳しく!」

 情緒0(ゼロ)のジェラルド様とわたしに、またきっぱり、否定されて


「……もう二人には、何も話しませんっ」

 すっかり、おへそを曲げてしまったお嬢様。

 最後は三人で、大笑いして。


「おやまあ! ベッドが、パイのカケラだらけ――何ですか、お嬢様もジェラルド様もユナも、子供みたいに……!」

 戻って来たおばあちゃんに、そろってしかられて……。

 どうかこんな日が、いつまでも、続きますように。



 ……わたしをここに連れてきてくれた神様、聞こえてますか?



(ユナの日記より)


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― 新着の感想 ―
[良い点] ちょっとした恋バナ(*´ω`*) ほっこりですね!ノロケ大会……、私も詳しく聞きたい!!!
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